ライフプランシミュレーションが、Z世代に不人気らしいです。これだけマネー教育とか、マネーリテラシーとか言われているのに、なぜライフプランシミュレーションは不人気なのか。よくよく考えてみると、誤差のような金額にこだわりすぎるのと営業ツールになってしまっているからのような気がします。
フィデリティ ビジネスパーソン1万人アンケート
フィデリティは先日、毎年行っているビジネスパーソン1万人アンケートの最新版を公開しました。その中で、年代によって大きな差が見られたのが「ライフプランニング」です。どの年代でも「投資の基礎」については役に立ったという回答が高いのに対し、「ライフプランニング」は、若年層/中堅層/高齢層のいずれも60%前後が「役に立った」と回答しているのに対して、Z世代だけは44%にとどまりました。
「充実不要」とした人もZ世代が74%と際立って高く、どうやらZ世代にとってライフプランニングは不人気のようです。
そもそもライフプランニングとは?
そのライフプランニング、そもそもどのようなものでしょうか。これは、現在の収入や支出の情報、将来の計画を入力することで、将来の家計収支をシミュレーションしたり計画したりするものです。
- これからどのくらいのペースで年収が上がって、
- いつ結婚して
- 子どもは何人で、子どもは私立か公立か
- 家をいつ買うか、クルマをいつ乗り換えるか
- 退職はいつか、想定する退職金は
- 老後は住み替える? 海外旅行は何回くらい?
と、こんなことを入力すると、何に課題があるとか、だから運用しようとかこの保険を買おうとか、そういうことが分かるという触れ込みのものです。
でも、細かく入れようとすればするほど、そんなん分かるわけないじゃん! って思いません?
馬鹿らしいのは、たかだか100万円くらいの旅行とかを細かくプランニングさせられること。そのくらいの額は、業績連動ボーナスの1回で変わっちゃうんじゃん。つまり、こまかなことにこだわりすぎる傾向にあるのです。
そのくせ、火災保険は入りますか? とか学資保険はとか細かく入れさせる。そして、最終的に「だからこの保険に入りましょう」というのが見え見えですね。
ある程度収入も見え、結婚して子供もいて、という40代、50代の人にとってはライフプランニングは有用です。どのくらい老後資金は必要なんだろう? どのくらい旅行とかにお金を使っても大丈夫なんだろう? 節約する必要はあるのか? と悩むときに、シミュレーションを行えば方向性が見えてきます。
「昇給率は何%ですか?」みたいな昭和のプランニング
でも20−26歳といったZ世代にとっては、これから出世コースに乗れるかのも分からないし転職するかもしれない。「昇給率は何%ですか?」みたいな昭和のプランニングパラメータはアホらしいわけです。さらには彼女と結婚するかも分からないのに、いつ結婚で結婚式にはいくらかけて、子供は何人で私立ですか公立ですか? とか聞かれても、そんなの時間かけて考える意味ある? とか思うのが普通ですね。
さらに、老後については年金がメインになるわけですが、年金が将来実際どのくらい受け取れるかは全く不透明。医療費だって場合によってはかなりかかるわけですが、このあたりも盛り込まれているシミュレータはほとんどありません。
つまり、誤差のような「旅行何回」みたいなものは入力させるのに、根本的な年金がどうなるかとか医療費がどうなるかとか、そういうのは「将来のことなんで不確定なので織り込んでいません」と言われると、そもそもシミュレーション自体に意味があるの? と思うわけです。
世の中が大きく変わろうとしているのに、終身雇用で結婚して家を買って子供を育ててという画一的な価値観に当てはめて人生をシミュレーションしようとする発想の貧困さに、これ無駄じゃんと思っても仕方がありません。
本当に必要なライフプランシミュレータ
ではどんなライフプランシミュレーションならニーズがあるのでしょうか。そもそもマネーリテラシーの中には日常の収支管理というのがあって、これはつまり「収入以上に使ってはいけませんよ」という話です。
極端な話、収入以上に使わなければ人生で金銭的に困ることはないはずなのですが、ではなぜ別途ライフプランニングが必要なのかといえば、収入内で賄いきれない支出が人生には発生するから。つまり下記の3つです。
- 住宅購入
- 教育
- 老後
この3つ以外は、基本的に収入の範囲内で支出すればいい話で、例えば旅行のために借金するとかは基本的にはおかしな話なわけです。またクルマとか耐久消費財は、ローンを前提に返済額を含めて収入の範囲内で支払えばOK。
で、住宅については、賃貸で借りるかローンを組んで購入するわけですが、ローン返済額が賃貸のときの家賃と同じならば基本的に支出は同じ。ここで「資産になるから」とか変に色気を出して返済額で背延びをしなければ、住宅がライフプランに影響することはあまりないはずです。
教育は確実に上乗せになる支出なので、基本的には前もって準備しておくべきものですが、その金額を把握して事前に貯めておくか、貯まっていなければ借り入れなどを検討しなくてはいけません。借り入れというのは、国の教育ローンとか奨学金とかになるわけですが、借り入れを加味してシミュレーションしてくれるものは見たことがありません。
老後は最も複雑です。ただし年金制度が変わらないことを前提とすれば、毎月どれだけ年金がもらえて、どれだけ税金が取られて、どれだけ社会保険料がかかって、生活に使える金額はこれだけというのが分かればいいはず。それを踏まえて、繰上げ・繰下げとかを検討すべきなのですが、こんな当たり前のことができるシミュレーションも見たことがありません。
さて、このように教育や老後を計算した上で、「いくら足りないのか」を算出し、それを収支の差額から捻出する。そういう流れになるはずなのですが、そういうライフプランシミュレーションも見たことがありません。
以前も「FIREに向けたライフプランシミュレーションがない」ということを書きましたが、生き方が多様化する中で、ライフプランシミュレーションは適応できていない感じもありますね。おそらく、ライフプランシミュレーションは、保険を売るとか証券を売るために開発されることがほとんどなので、目的にマッチしない機能は盛り込まれないからだと思います。残念な話です。