先日Xの株クラで話題になったのが「再現性のあるFIRE」でした。これは、FIRE本の著者に対して、読者が求めているのは再現性のあるFIREであって、贈与や相続で得たお金でFIREする内容じゃない――という流れで出てきた話。でも、再現性のあるFIREってなんでしょう。そんなのあるのでしょうか。
- 親からの贈与でFIREしても参考にならない
- 突き詰めるとFIREは運?
- 大元本−高収入−サラリーマン
- 大元本−高収入ー一発系
- 大元本−節約系
- 運用−株式系
- 運用−不動産系
- 運用-仮想通貨系
- 結局、再現性の高いFIRE手法は?
親からの贈与でFIREしても参考にならない
FIREにはいろいろな亜種があって、「やりたくない仕事を続けるより自由に生きよう」というRE軸と、「資産があれば経済的に自立できる」というFI軸があります。
RE軸は、昔から名前を変えて存在しています。例えば副業を主軸に据えて生きていくと決めた人や、ちょっと前のフリーランスブーム、古くはノマドとかギグワーカー、さらに古のフリーターとかもそう。
なので資産による経済的自立を意味するFI軸のほうが、ぼくはFIREムーブメントの本質だと思っています。そのため、ここでもRE軸ではなくFI軸に限って考察します。
閑話休題。昨今のFIRE本の多く、というかほとんどは、「これを読めばあなたもFIREできる!」という内容になっています。その構成としては、
- 自分はこうやってFIREした
- だからこの手法があなたにも参考になる
というものがほとんどです。だからその人がどうやってFIREしたかが重要になります。親からの贈与でFIREしたといわれても、全然自分の参考にならないじゃないか! というわけです。
突き詰めるとFIREは運?
ただじゃあほかにどういうFIRE達成者がいるかというと、方向性は大きく次のように分かれます。実際にはどれか一つではなく、ミックスになるでしょう*1。

ではこれらを再現性の面から見てみましょう。
大元本−高収入−サラリーマン
は実は最も再現性が高いでしょう。一流大学に入り若くても高収入な外資系に就職するというパターンは、ぼくが考えるに最も再現性があります。実際、FIREブーム前からこの人たちは若くして引退していました。もうしばらく前ですが、早期引退した、元GSの日本支社の営業トップを務めていた人と食事したこともあります。
ただこの再現性高いルートは、当たり前過ぎてコンテンツになりません。「FIREしたいなら東大に入りましょう」とか「FIREしたいならマッキンゼーに入社しましょう」とか別ジャンルの本になってしまいます。
大元本−高収入ー一発系
は昨今意外に再現性が高いと思っています。ただ起業すれば誰でも成功するわけではない上に、優秀であってもかなり運の要素がつきまといます。IPOしそうな企業に入ってストックオプションをもらうという方法も相当運で、ストックオプションをもらったものの上場できなかったというのは、思う以上に多いものです。
ぼくはこのストックオプションと運用系のミックスでFIREした人間ですが、実はストックオプションは3社からもらったものの、その中でストックオプションを行使できるまでになったのは1社だけでした。
参考:就活生に告ぐ ストックオプションをもらいなさい - FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記
大元本−節約系
は最も再現性が高いとぼくは思っています。結局のところFIREには多かれ少なかれ節約は必要で、相当な収入や資産があっても、ZOZOの前澤さんのような金の使い方はできません。同じ資産額なら、FIREした人のほうが使えるカネは少なくなるのは自明です。
極端な話、「三菱サラリーマンさん」がなぜFIREできたかというと、高収入であることがポイントではなく、収入の8割を入金し運用に回したことが大きいわけです。ただ、節約FIREは話を聞くには面白くても、自分でそれを実行したいかというと違う。そんな人が多いので、書籍にはなりにくいか、FIRE本ではなく節約本になってしまいそうです。
運用−株式系
は今でもFIRE本の主流でしょう。ただし大きな元本ではなく高い運用成績によってFIREしようと思ったら、株式インデックス平均リターンの6%程度では物足りません。なので、FIREを高めるならインデックスではなく個別株とか、レバレッジをかけるとかが必要なのですが、FIRE志望の人にはそういう方向性が嫌いな人が多いようで、あまり見ませんね。
逆に株式インデックスの平均リターンを下回ることが多い高配当系はなぜか人気です。ほんとなぜなんでしょう。いずれにせよ、個別株や信用などレバレッジで再現性高く勝てるなら誰も苦労しないわけで、一発人生逆転の可能性はあるものの最も再現性は低いと考えます。
運用−不動産系
はあまり話題になりませんが実は再現性が高かったFIRE手法だと思います。まず不動産投資にはけっこうな元手が必要でかつ与信もいるので、必然的に大元本−高収入系とセットになります。そして現在までの数十年は金利が非常に低く、フルローンやオーバーローンなど融資姿勢も緩和的で、かつ不動産価格が上昇を続けるという相場でした。
大元本−高収入系の人なら次々と都心の不動産を買っていくだけで、労せずFIREしていきました。そういう人は何人か知っています。ただFIREは株クラの名称なんで、不動産FIREという言葉はほとんど聞きません。また、金利上昇局面で不動産が割高な今から今後は、本当に再現性があるのかは不明です。
運用-仮想通貨系
はたくさんの億り人、FIRE者を排出してきました。リアルに何人か会ったこともあります。みんなとても若いことが特徴で、30代、下手したら20代で数億円という資産を築いています。方法も簡単で、ビットコインを買って持っているだけ。本当にこれだけでした。
では再現性という面ではどうでしょう。はっきり言って仮想通貨投資によってFIREするには、旬は過ぎてしまったというべきではないでしょうか。ビットコインのリターンは年々低下しており、多くの人が保有し、ETF化するなど既存の金融に組み入れられてきた昨今、以前のような爆発的なリターンは望めず、行っても年率で100%がいいところではないでしょうか。
では草コインはというと、詐欺と運の塊なので、ビットコインの夢再びを追うには再現性は皆無に近いのではないかと思います。
結局、再現性の高いFIRE手法は?
まとめてみましょう。再現性が高いものを◯、まぁまぁを△、あまりないよねというのを✗とします。
- 大きな投資の元手を作った
- 収入が多い
- 高収入サラリーマン系◯
- 起業やIPOなど一発系 △
- 倹約した ◯
- 収入が多い
- 少ない元手を運用して大きくした
- 株式系 ✗
- 不動産系 ✗(以前は△)
- 仮想通貨系 ✗(以前は△)
というわけで、ぼくの私見では、「少ない元手を運用して大きくした」、非常に再現性が低く、逆に高収入を目指したり倹約を突き詰めたりといった「大きな元手を作った」系の再現性は高くなっています。
ただし書籍の読者が求めるのは「あまり元手もなくて高収入でもないあなたでもチャンスがある!」という系統ですよね。なので、ほとんどのFIRE本は成功体験本&読み物として読むべきで、そこに生き方や投資に対する考え方のヒントを得られればOK。再現性なんて求めてはいけないのです。
もし再現性高いFIRE理論を求めるなら、海外留学してMBAを取るとか医師や弁護士などの資格を取るとか、一念発起して企業したりスタートアップに転職するほうが近道かと思います。ただこういうノウハウを語った本は、FIRE本ではなく参考書とかかも。
また運用系FIRE本には情報商材系や詐欺に近い系も紛れ込んでいる場合もあるので、注意です。「FIREセミナー!」というので興味津々で行ってみたらワンルームマンション投資の話だったというのも横行していますので。
というわけで、あくまで私見ですが再現性のあるFIREを求めるなら、いかに収入を増やすかという王道を進むことです。その上で、同業の人たちよりも生活レベルを抑えて倹約する。逆に、運用については株式インデックス以上の成果を望みすぎると足をすくわれます。この10年ほどはたいへん市況が好調で10%以上のリターンを上げる人もたくさんいましたが、それがレアだったと考えないと、FIREどころかせっかく貯めた資産を目減りさせることにもなりかねないからです。
ちなみに、本当に再現性を求めるなら節約&株式インデックスの手法が確実でしょう。下記の記事でシミュレートしたように、月34万円の手取りの半分(17万円)を卒業からずっとインデックス投資に回せば、50歳時点で資産が1億に達することになります。月17万円で生活を続けてきたわけですから、2%取り崩しでその後も生きていける計算です。
*1:ぼくの場合、元手:収入:IPOと、運用:株式、運用:仮想通貨 のミックスです。収入が多いの中には、譲渡や相続が元手になっている人もいるようですが、それをここに入れるのははばかられます。