投資にはいろいろなやり方考え方があるのですが、九条が心がけているのがメタトレンドに沿った投資です。メタトレンドとは、特定の業界や市場における一時的な流行(トレンド)ではなく、世界全体に長期間に影響を与えるような潮流や変化のこと。「これは世界を変える!」と思うもののことです。
先日、中嶋聡氏の「メタトレンド投資」を読んで、まさにこれ!と膝を打ったのですが、そんなメタトレンドの中から、ぼくが注目している5つを簡単にまとめておきましょう。
人類の存在を変える、AI
筆頭に来るのはAIです。2023年にChatGPTが登場して話題を集めましたが、実はAIがもたらす影響がいかに大きいかは過小評価している人があまりに多いと感じています。「ちょっと便利な検索」「雑談や壁打ち相手」くらいにしか見ていないと、メタトレンドを読み間違えます。
ぼくが見るに、これは産業革命やインターネットの登場に比べても圧倒的に大きな変化で、人類史上において最大のメタトレンドだと思っています。使っていない人は全く使っていないAIですが、活用している人はもうこれがなれば仕事ができないというレベルで使っています。
これから先、どんなことが起きるか、いろいろな人が予言していますが、ぼくが起こるであろうと考えていることは次のようなものです。
- ノーベル賞級の研究が行えるAGIが登場する
- AGI開発競争が軍拡競争として位置づけられる
- ホワイトカラーが行うデスクワークのほとんどはAIに取って代わられる
- コールセンターなどの感情労働もAIに取って代わられる
- 人類の仕事は「投資家」「起業家・経営者」「AIを開発する人」「AIを管理する人」「AIに管理される人」に大別されるようになる
- AIチップ需要は爆発的に拡大する。電力需要も爆発的に拡大する
戦争も環境破壊もエネルギーが原因 核融合
2つ目のメタトレンドは核融合です。「常に30年後には成功すると言われてきた」などと揶揄される核融合ですが、実は継続的にエネルギーを取り出せるようになるまでは秒読み段階に入っています。
核融合は、重水素・三重水素を高温高圧のプラズマ状態にしてそれを維持することで実現できます。そのための方法として、「トカマク」と呼ばれる磁場閉じ込め型と、「レーザー核融合」と呼ばれる慣性閉じ込め型の2種類があります。
トカマクは基本的に規模を大きくすればそれだけ効率がアップすることがわかっていて、世界共同の研究施設ITERが先行していて2035年には発電が試験的に行われる計画です。レーザー核融合はアメリカのNIFが、入力したエネルギーよりも出力するエネルギーのほうが大きいQ値1以上に成功しました。ただ、レーザー核融合は点火後、自律的に反応が続くわけではなく、継続運転するには、秒間10回程度のレーザー発射を続けなくてはなりません。そこに課題がある状態です。
核融合が成功すれば、人類のエネルギー需要は一気に解決すると無邪気に考えていましたが、実は微妙な点が数多くあります。それでも、石油を巡る戦争も、地球温暖化ガスを出さないエネルギー源としても、核融合は最高峰でしょう。
- 2035年に試験、その後実際の発電所が作られても、その前に人類は温室効果ガスゼロを実現している(しなくてはならない)公算が大きい
- 核融合発電所のコストは不確定要素が多いが、試算によるとどうやら太陽光発電や地上風力発電よりも高コストになりそう
実用化も進む量子コンピュータ
現在のコンピューターに対して次世代計算システムとして、急速に注目を集めているのが量子コンピュータです。指数関数的に時間がかかる古典的な計算を、劇的に短縮できる可能性を持っています。
- 最適化問題:輸送・物流・金融ポートフォリオ最適化など、組み合わせ最適化問題に強い
- 量子シミュレーション:分子や化学反応のシミュレーションに強みを発揮。新薬開発や超伝導材料の研究に
- 機械学習と人工知能(AI):量子機械学習(QML)により、大規模データの解析やパターン認識が高速化。量子ニューラルネットワークの研究も進行中
- 金融工学とリスク解析:金融市場のモンテカルロシミュレーションが高速化。ポートフォリオの最適化やデリバティブの価格計算が向上
- 大規模データ検索とデータベース処理:グローバーのアルゴリズムを利用して、データベース検索を√Nの計算量で高速化
- 暗号技術:量子鍵配送(QKD)によるセキュアな通信
量子コンピュータ市場は、現在は研究開発段階のため数百億円規模に留まるが、今後飛躍的な成長が見込まれるといいます。2030年には90億ドルという試算がされており、さらに2040年頃までに数千億ドル規模の経済価値を創出すると予測されています。
主なプレイヤーを簡単に挙げておきます。量子アニーリングのD-Wave以外はゲート型(ユニバーサル)量子コンピュータを採用しています。
- IBM:超伝導方式のトップランナー。初の1000量子ビット超となる1121量子ビットのプロセッサ「Condor」を開発し、超伝導量子ビットの高密度集積化を実証
- Google (Alphabet):2024年のWillowチップの発表が有名。競合のIBMとは対照的に、まずは研究で世界一になることを重視し、商用化は技術確立後にスケールさせる方針
- Microsoft:トポロジカル量子ビットという難題に挑み続けている。同時にAzure Quantumを通じたマルチプラットフォーム戦略も継続
- IonQ:トラップドイオン方式で先行。業界で比較的早期に収益化を果たした企業
- Rigetti:超伝導方式のスタートアップとしては老舗。2024年には84量子ビット機を投入し、2025年末までに100量子ビット超のシステムを開発する計画
- D-Wave:世界で初めて商用量子コンピュータを販売した企業。当面は量子アニーリング技術でキャッシュフローを生みつつ、将来的なゲート型マシンの競争にも備える二正面作戦
不老不死の実現 アンチエイジング
未来思想家、レイ・カーツワイルは人類を大きく変化させる技術として、AI、ロボット、そしてバイオテクノロジーを挙げました。そしてバイオテクノロジーはAIの発展によって急速に進歩する可能性を含んでいます。
ノーベル賞を受賞したGoogle傘下DeepMindのAlphaFoldは、タンパク質のアミノ酸配列からその立体構造を高精度で予測するAIモデルです。2020年に登場したAlphaFold2は、その性能で研究者を驚かせたわけですが、2024年のAlphaFold3ではさらに進化。タンパク質とDNA、tRNAなど含むRNA、金属イオンなどの原子、小分子などとの複合体を予測できるようになりました。これにより、分子間の相互作用が解明でき、創薬に大きく貢献するというわけです。
少し前のイノベーションとしては、ゲノム編集手法としてのCRISPR-Cas9技術もそうです。これは遺伝子を簡便かつ安価に編集できる技術で、ノーベル賞も受賞しました。人間の遺伝子も自由に編集できることから、倫理的な問題もあるものの、デザイナーズベイビーやスーパーヒューマンへの道も拓いています。
体内の健康状態をリアルタイムでモニタリングする技術も注目です。現在はDexcomやAbbott、Medtronicなどが血糖値を計測するセンサーを開発しています。ただ今後はAppleWatchの医療モニター機能が強化されていることからも分かるように、Appleがこの領域でブレイクスルーを起こすかもしれません。いつの間にかAirPodsは補聴器になっていましたし。
ポスト・スマートフォン ARメガネ
最後に、メタトレンドとしてはちょっと小粒なものの、ポスト・スマートフォンとしてのAR技術です。インターネットデバイスは、PC→携帯電話→スマートフォンと進化し、そのそれぞれが世界最大の産業の一つとなりました(Intel/Microsoft→Nokia→Apple)。しかしスマートフォンのコモディティ化、そしてAIの発展とともに、ポスト・スマートフォンが模索されています。
いくつかの候補があるわけですが、ぼくが注目しているのがVRグラスではなく、ARメガネです。これはカメラとマイク、スピーカーを備えたメガネで、ネットやAIとのやり取りが可能です。AIがカメラとマイクで世界を認識し、スピーカーでユーザーに情報を届けてくれるというもの。
実は既に「Ray-Ban Meta」という製品名で発売されていて、価格は299ドルから。2024年には既に100万台を売り上げました。音声コマンドを用いて写真や動画の撮影、音楽の鑑賞、通話などが可能な作りです。
LlamaなどのAI開発を手掛けるMetaは、もちろんここにAIを搭載する計画です。
記憶機能の追加
例えば、広大な駐車場に車を停めた際、駐車番号を見ながら「Hey Meta、どこに駐車したか覚えておいて」と命令しておけば、後で「Hey Meta、どこに停めたっけ?」と尋ねると駐車番号を教えてくれる。
Meta AIがマルチモーダルに
Meta AIに動画機能が追加され、マルチモーダルになったことで、例えば散歩中に目に留まったランドマークについて質問したり、次にどこに行くべきか提案してもらったり、スーパーでの買い物中に、手に取った食品がMeta AI提案のレシピに合うかどうか尋ねたりできる。
リアルタイム翻訳
近日中に、スペイン語、フランス語、イタリア語をリアルタイムで英語に翻訳する機能が追加される。相手の話している内容がほぼリアルタイムで英語で聞こえてくる。今後、さらに多くの言語が追加される予定。
スマートグラス「Ray-Ban Meta」に「Meta AI」強化やAudible対応などのアップデート - ITmedia NEWS
さらに、メガネ面に映像を投影する機能の研究も進んでいて、2025年後半には登場予定とされています。ザッカーバーグCEOは、音声のみのスマートグラス、HUD搭載モデル、将来的なフルARグラスという3つの製品ラインを並行して展開するとしています。これは、OculusやApple Vison Proよりも成功する可能性が高く、ポスト・スマートフォンとなる可能性があるとぼくは思っています。