インデックス投資大隆盛の昨今ですが、「インデックス投資はしょせん平均値でしかない」とも言われます。それはその通り。インデックスに勝つ人もいれば、インデックスに負ける人もいる。だからこそ、その平均がインデックス投資の成績になるわけです。
ところがこれをもって、「個別株投資をすれば、半分の確率でインデックスに勝てる!」と思っている人もいるようです。平均がインデックスですから、ならばインデックスを超える可能性だってある――そう思いたくなる気持ちはわかります。
さて、これは本当なのか。考察してみました。
50%の確率で勝てる投資を考える
数理的にこれを検証するために、ごくごくシンプルな投資について考えてみましょう。次のようなものです。
最初の資産は1。
50%の確率で勝ち、勝つと10%資産が増え、負けると10%資産が減る。
10万人がこの投資を複数回行い、誰がどのくらいの資産になったかを見る。
勝率は50%。勝っても負けても資産の増減は10%。どうでしょう? 勝てる感じがしますか? それとも負ける感じがしますか? はたまた総資産1のままほとんど変わらない感じでしょうか*1。
投資を繰り返すとどうなるか
実際に10万人がこの投資を10回行った結果が下記のヒストグラムです。なんとなく、いわゆる正規分布のように見えます。10万人の平均リターンは0.9998で、平均すると最初の資産1からほぼ変わりません。

では回数を50回に増やすとどうでしょう? かなりグラフが変わりました。平均は1.0012でほぼ変わらないのですが、66,321人が平均を下回りました。3分の2は平均に届かなかったのです。
66%が平均に届かないのはなぜかというと、大儲けしたごく一部の人が平均値を引き上げているからです。

試行回数をさらに増やして100回にするとさらにボリュームゾーンが下に移ります。実に69%の投資家が平均を下回りました。

500回試行すると衝撃的です。平均リターンは1.0104で相変わらずほぼ1なのですが、ほとんどの投資家(87%)が大きく平均を下回り、半数の投資家が元本の92%を失いました。この世界では、平均リターンを出している投資家は圧倒的上位勢です。平均を取ることがいかに重要かがわかります。

一体何が起こっているのか? 対数正規分布
いったいなぜこんなことが起こるのでしょうか。今回の、
50%の確率で勝ち、勝つと10%資産が増え、負けると10%資産が減る。
というルールによる確率分布は二項分布に従います。二項分布は試行回数が増えると、だいたい正規分布に近似します。いわゆる釣鐘型のよくある分布です。投資の世界だと、平均値(μ)と分散(σ)で表されますね。
正規分布であれば、平均値を中央に、その左右になだらかに広がる分布になります。まさに平均値よりも多い人と平均よりも少ない人が同数いる分布です。

ところが今回の分布は正規分布とは全く形が違いました。平均のはるか下にボリュームゾーンがあり、平均よりも高いところにロングテール的に超大金持ちが点在します。こうなるのはなぜでしょうか?
実はこのグラフの横軸に対数を取ると、面白いことがわかります。下記が横軸対数スケールで500回施行時のリターン分布を見たものです。あれ、ほぼ正規分布ですね。平均は1σあたりにありますが。

これは対数正規分布と呼ばれる分布です。どういうときに分布が正規分布になっていくかというと、試行事に独立していないで、前回の結果に対して複利で資産が変化していくときです。逆にいうと、複利で変化していくものは、1回だけなら正規分布でも、複数回繰り返すとどんどん対数正規分布になっていくわけです。
ちなみに株式のリターン分布で一般に使われる幾何ブラウン運動(Geometric Brownian Motion, GBM)を元に、つくだに博士がモデル化したのがこちら。年数が経過するほど、個人がインデックス(平均)に勝つ確率はどんどん小さくなります。基本的に同じ理屈です。
個人のリターンを、共通/個人の2種のブラウン運動を持つGBMと仮定。μ=7%、共通のσを15%、個人のσを市場分と合わせ20%に設定。
— つくだに博士 (@golden_inago) 2025年7月30日
個人が平均に勝つ確率は、年数の経過で下がる。少数の勝者が平均を引き上げ、多数が負ける。実力差を無視し、運の良さの違いを見ただけの結果がコレ pic.twitter.com/rovBgHnF9Z
インデックスに勝ちたいなら一発勝負
この数学的事実から導き出されるのは、「ほとんどの投資家はインデックスに勝てない」というシンプルな結論です。大勝ちする投資家が平均を押し上げるため、これが起こります。
そして複利効果が働くほど分布が対数正規分布となり、平均よりも下の成績の人ばかりになります。インデックスを遥かに超える超優秀な投資家も何人かはいますが、ほとんどは平均よりも遥かに下となるのです。
この世界でインデックス以上の成績を出すには、3つの選択肢しかありません。
- トップ数%の凄腕投資家になる
- 最初の1回で投資を終える(半分の確率でインデックスを超えられる)
- インデックスを買う
というわけで、世界にはインデックスを超えるすごい腕を持った投資家がいるのは事実です。しかし、50%どころかほとんどの投資家はインデックスを超えられません。そしてそれは複利の効果のおかげで、投資年数が増すほどにインデックスを超える人が少なくなります。これが、数字で見た「個別株投資をすれば、半分の確率でインデックスに勝てる」のかの答えだということです。
Special Thanks Gemini
さて、今回のモンテカルロ・シミュレーションとグラフはすべてGemini2.5Proにやってもらいました。下記のプロンプトで、Pythonでコードを書き、チャートを表示してくれます。
投資家のリターン分布は正規分布にならず、ほとんどの投資家は平均=指数に勝てないということを、シンプルなモンテカルロ法で示したい。
勝率50%、勝利すると+10% 負けると-10% これをn=100000(投資家10万人)で複数回試行します
ヒストグラムで表示したいので、まず10回試行後のリターン結果をnの分布という形で表示して
いやはや、いい時代になったものです。ExcelもPythonも使わずに、こうした数理分析が簡単にできるのですから。
ちなみに、同じプロンプトをChatGPT o3、Gemini 2.5Pro、Grok4に投げて、同じことをやらせています。Grok4は意外にいいですね。速度も早い。でも絵がうまく書けません。o3は悪くないのですが日本語フォントを添付してあげないとグラフが文字化けするので、それだけで萎えます。Gemini2.5Proは思考能力といい表現力といい、いいバランスだと改めて感じました。
ただ、途中でなぜか反抗的になり、「イヤイヤ期」が到来することもしばしば。なんなんでしょうねw

*1:ちなみに、この条件は期待値は極めて低く、幾何平均では試行回数が増えるほど悪化します。とはいえ、相対的な数字を見るのが目的なので、そこはあんまり気にしないでおきます。