FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

NVIDIAとOpenAIの巨額投資は循環取引なのか

このところのAI企業のトピックは、NVIDIAとOpenAIの巨額投資です。両者とも巨額の出資や投資を加速させており、AI開発競争が、高性能モデルの開発だけでなく、それを開発したり動かすAIデータセンターの争いになってきていることが分かります。

 

ただし課題は、これが極めて循環取引的に見えることです。例えばNVIDIAはOpenAIに1000億ドル出資するコミットメントを行い、OpenAIはこれによって得た資金でデータセンターを構築し、そのデータセンターではNVIDIAのGPUを購入します。こうした取引がNVIDIAの高い売上を支えているのです。これをどう見たらいいのでしょうか。

NVIDIAの投資戦略

NVIDIAの業績は絶好調で、四半期で前年同期比56%増の467億ドルに達しています。そして営業利益は306億ドルという巨額です。次々と積み上がる巨額のキャッシュを使い、NVIDIAはビジネスの構造を変化させつつあります。

 

これまでのNVIDIAは、AIゴールドラッシュに必須のアイテムであるツルハシを売って大儲けしてきました。しかしこのところは、それで得たキャッシュを使い、鉱山そのもの(AI企業)に資金を提供し、その所有権の一部を得るというモデルに転換しつつあります。

 

その象徴が、OpenAIに対する最大1,000億ドルの投資コミットメントです。これは10GW(ギガワット)のNVIDIAシステム導入に使われます。要するに、NVIDIAはOpenAIに投資(おそらく株式を取得)し、OpenAIはそのカネでデータセンターを構築し、それはつまりNVIDIAのGPUを買う資金に回るということです。

nvidianews.nvidia.com

 

下記のポストに象徴されるように、自分が出したカネで自社の製品を買ってもらう。これが「循環的取引」だといわれる所以です。

ah shit, I had swapped lambda and coreweave around to make the diagram more sane and forgot to move the super micro funding arrow from coreweave to lambda. fixed

anthony restaino (@anthonycr.bsky.social) 2025-09-23T14:40:22.470Z

bsky.app

同じような取引が、イーロン・マスクのxAIに対する投資です。200億ドル規模の資金調達ラウンドの一環として、NVIDIAは20億ドルの株式投資を行います。この取引は特別目的事業体(SPV)を通じ、SPVがNVIDIA製GPUを購入し、それをxAIがリースする仕組みです。

出資で競合を排除するNVIDIA

もう一つ、NVIDIAによるIntelへの出資も見逃せません。50億ドルの普通株式による投資を行います。これは、データセンターやPC向けに、NVIDIAのNVLink技術と統合されるカスタムx86 CPUを共同開発する提携の一環とされています。NVIDIAはARMベースのチップをデータセンター向けに提供していますが、まだまだx86のほうが優勢。そこで、x86を組み込んだNVIDIAチップを用意すれば最強という話です。

 

そしてこれは巧妙な競合排除の策でもあります。Intelが競合となるAIチップの構築に全リソースを投入する代わりに、NVIDIAの支配的なアーキテクチャ内で部品供給者となるよう誘導しているわけです。いわば潜在的な競合に出資することで、下請業者化するという狙いです。

nvidianews.nvidia.com

 

その他、NVIDIAは数多くのAIハードウェアベンダーに出資しています。クラウドプロバイダーのCoreWeave、データプラットフォームのDatabricks、AIインフラのScaleAI、さらには核融合発電のCommonwealth Fusion Systemsや量子コンピューティングのQuantinuumなど。AIとエネルギーの基盤レイヤーを押さえにいっています。特に、GPU専業データセンターを営み急成長しているCoreWeaveには30億ドルの株式を保有しており、ここも一時的な顧客の株式を握るという、AIエコシステムの全部を握るムーブをしています。

OpenAIの投資戦略 Microsoft独占からの脱却

NVIDIAが、GPU販売で稼いだ膨大なキャッシュを元手に投資しているのに対し、OpenAIは、5000億ドルと評価れる自社株式を活用して、各所から投資を引き出し、それをデータセンター構築に注ぎ込んでいます。

 

まずNVIDIAとの提携は、先に書いた通り最大1,000億ドルの投資を受け、少なくとも10GWのNVIDIAシステムを導入する計画です。

 

またOracleとの提携は、同じくAIデータセンター構築のために5年間で最大3,000億ドル規模の契約を締結しています(これはOracleの株価を30%も跳ね上げさせました)。


さらにAMDとの提携もあります。6GWのAMD製GPUを導入する複数年契約です。この契約には、OpenAIがAMDの最大10%の株式を取得するオプション(ほぼ無料に近い)が含まれています。要するに、「お前のところのGPUを買ってやるから、株をほぼタダでよこせ」というすごいディールです。この計画が発表されるとAMDの株価も跳ね上がりました。

ir.amd.com

 

そして、Stargateプロジェクトもあります。ソフトバンクグループおよびOracleとの合弁事業で、米国のAIインフラに最大5,000億ドルを投資します。総容量10GWを目指すという話です。テキサス州アビリーンを皮切りに、新たに米国内5か所の拠点が追加されました。計画容量は7GW近くに達し、今後3年間で4,000億ドル以上の投資がコミットされています。

 

もう一つ、忘れてはいけないのがMicrosoftとの関係です。キャッシュ不足だった当時のOpenAIは、Microsoftによる初期の130億ドル以上の投資により、生き延びました。このとき、OpenAIのモデルはAzure上で独占的に稼働するというパートナーシップを結んでいます。ちなみに、この130億ドルの投資は現金ではなくほぼAzureのクーポンだったという話なので、これも循環的な取引だといえそうです。

 

さて、Microsoft依存からの脱却の動きが、Oracle(クラウドインフラ)およびAMD(GPU)との巨大契約だと捉えると、OpenAIの進む道もクリアになるでしょう。

これは循環取引なのか市場創造なのか

さて、出資したカネで自社製品を買ってもらうというモデルは「循環的」と批判されます。ただし、犯罪行為としての循環取引では、買ってもらった自社製品や自社サービスには実態がありません。

 

粉飾企業として問題になったオルツは、広告費として代理店に支払ったお金を自社製品の売上に還流していましたが、ポイントはオルツの製品を使っているユーザーがいなかったということです。

AI新興企業「オルツ」の元社長ら逮捕 111億円粉飾決算疑い 東京地検特捜部|【西日本新聞me】

では今回のNVIDIAやOpenAIの取引はどうなのかというと、NVIDIAの製品は引く手あまたですし、OpenAIはそのNVIDIAのGPUを使い何千万ユーザーに非常に有用なサービスを提供しています。

 

例えば、ドットコムバブル時代に行われた通信事業者Lucent Technologiesのベンダーファイナンスを比較してみましょう。Lucentは自社の通信機器を購入する顧客(その多くは、当時乱立していた新興の通信事業者)に対し、その購入資金を直接融資していました。これは一見、NVIDIAが行っている内容に似ているように見えます。

 

しかし、当時との最大の違いは実際のニーズがあるかどうかでしょう。2000年当時に敷設された光ファイバーのうち、利用されていた容量はわずか0.002%未満でした。まだニーズがないところに、将来性という形でバブルが発生したのです。一方で、AIの学習および推論のための演算リソースは、現時点でも全く足りていません。NVIDIAは顧客に資金を提供して買ってもらっていますが、そこには実需があるのです。

 

またLucent自身は対して稼げておらず、さらにその顧客も赤字で負債だらけでした。一方NVIDIAは年間500億ドル以上の営業キャッシュフローを稼ぐ、世界でも最も稼いでいる企業の一つです。そしてその上位顧客は、Microsoft、Google、Amazon、Metaというハイパースケーラであり、年間に合計4510億ドルもの営業キャッシュフローを生み出しています。実際のお金が回っているのです。

 

このモデルは「循環的」と批判される一方で、高リスクながらも必要な「市場創造」の一形態と解釈することもできるわけです。次世代製品への需要が顧客の支払い能力を上回る黎明期の産業において、独占的な供給者(NVIDIA)は、自社の成長軌道を維持し、普及を加速させるために、自らの未来の市場に資金を提供することで、市場を作り出そうとしています。

 

AGIレベルのコンピューティング需要は、現時点ではOpenAIやハイパースケーラのような少数の組織に集中しています。NVIDIAは、市場がその製品を購入するための数兆ドルの資本を自然に生み出すのを待つことはできません。そのため、自社の莫大なキャッシュフローとバランスシートを活用して主要顧客に資金を提供しているわけです。これは単一の売上を計上するためだけでなく、自社の未来が依存する市場そのものを創造し、加速させるための戦略的判断だとも捉えれます。

逆回転のリスク

一方で、こうした密接な関係は、一つでも歯車が狂うと連鎖的に影響が派生し、すべてが逆回転してしまうリスクもはらんでいます。

 

例えば、NVIDIAが投資し急成長しているCoreWeaveは、保有するGPUを担保に資金を調達し新たなAIデータセンターを構築しています。しかし、もしもGPUの需給が崩れて価格が下落したら、GPUは担保価値を失い、CoreWeaveのビジネスは破綻してしまいます。するとCoreWeaveが買っていたGPU需要も失われ、さらにGPUの価格が下落する……。こんな展開だってあり得るわけです。

 

最大のリスクはOpenAIでしょう。OpenAIは大量のユーザーを抱えるAI研究の最先端組織ですが、キャッシュフローは赤字であり、凄まじい勢いでお金を燃やしています。それでも資金が集まるのは、近い将来AGIを開発しそれが莫大な経済的価値を生み出すと考えられているからです。

 

ところが、今の開発の延長線上にAGIがないとわかったり、AGIに期待される経済的価値が実現しないとなった場合、投資家であるNVIDIAは過剰な負債を抱えた不採算顧客=OpenAIの株式を保有し続けることになる可能性があります。そしてもちろん、最大手顧客の破綻はNVIDIAのGPU販売先が大きく減ることを意味します。

 

つまり、OpenAIの資金調達失敗のようなエコシステムの一つの領域での失敗が、ドミノ倒しのようにNVIDIAのエコシステム全体に波及する可能性があるわけです。これがこの取引の最大のリスクであり、投資家が注意しなくてはいけないところでしょう。

 

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