エピック・フューリー作戦と名付けらたアメリカのイラン攻撃は、戦争自体の勝敗がどうであれ、原油の流通に大きな影響を及ぼし、全世界に大きなダメージを与えています。今回は、これが投資家の観点でどんな影響を及ぼすのかを考えてみます。
歴史的な原油供給ショック
現在の経済・金融市場に関しての大きなトピックは次の4つになるでしょう。
まずはホルムズ海峡をイランが封鎖したことによるエネルギー供給ショックです。2月28日に発動された作戦とホルムズ海峡の実効的封鎖により、世界最大級となる日量800万から1,000万バレルのエネルギー供給が喪失しました。世界に尾原油供給の2割、LNGの約25%がホルムズ海峡を通解していて、これが実質的に失われたわけです。国際エネルギー機関(IEA)はこの事態を「世界の石油市場の歴史において最大の供給途絶」と発表しています。
2つ目はそれに伴う原油価格の高騰です。一時119ドル/バレルまで上昇し、その後一旦下げたものの、本日16日時点では再び100ドルを超えてきました。
ただし過去のオイルショックとは異なり、米国株は驚異的な回復力を見せていて、S&P500の下落は4.2%にとどまっています。
そして、ゴールドは一時5233ドル/オンスまで上昇。その後伸び悩んでいるものの、伝統的な安全資産と言われた円やスイス・フランは下落しました。

2月〜3月のタイムライン
では時系列で何が起きたのかをまとめておきましょう。実は開戦前の10日から27日にかけて、マネーは逃避を始め金価格は暴騰を始めていました。週末の28日に開戦されるとハメネイ師が死亡。ボラティリティは急拡大。
3月上旬にはホルムズ海峡が封鎖され、ブレント原油が急騰。IEAは過去最大となる4億バレルの備蓄放出を決定するも、原油は再び100ドルを超えてきました。現在の注目は、原油価格高騰によるインフレの再燃と利下げ期待の剥落です。

資産クラス別の動き
こうした状況の中で、各資産クラスは別々の動きをしました。S&P500は、エネルギーと防衛セクターが下支えしパニック売りは起こらず、限定的な下落に留まりました。原油は高止まり、ゴールドは開戦前に急騰し、開戦直後にピークをつけるというよくあるパターンです。
今後注目なのは金利の動きです。インフレ懸念から米10年金利は4.08%→4.27%へと上昇。FRBの利下げ期待は剥落しました。米金利上昇に伴いドル円為替も円安に。155→159円へと反応しました。

ちなみに、あんまり話題になりませんが、ビットコインがジリジリと価格を戻しています。株式と同じようなリスク資産として最近捉えられることが多かったのですが、今回は「デジタルゴールド」としての動きですね。やはり単なるリスク資産と考えるのは誤りでしょう。
さて、今回と似た状況は1970年代のオイルショック時にもありましたが、50年前と現在の状況はけっこう違います。最大の違いは、エネルギーの自給構造でしょう。原油輸入国であった米国はシェール革命を経て原油の純輸出国に。原油高になってもGDPへの影響は限定的です。
また当時の主力産業が製造業・重工業だったのに対し、AI/テクノロジー産業に主力が代わりました。これも市場への影響が小さかった理由です。また、オイルショック時はインフレ抑制のために激しい利上げが必要となり、いわゆるボルカー・ショックを引き起こしましたが、今回はそこまでの悪影響は出なそうです。

各国市場への影響
これらをまとめると、エネルギーの自給構造の違い、経済構造・テクノロジーの優位性の違いによって、国ごとに影響が大きく違うことが分かります。
米国は原油が入ってこなくても影響は限定的で、かつ主力産業はテクノロジー。そして防衛産業の活性化で、相対的な強さを持ってます。
一方で、日本に代表されるエネルギー自給度が低い国々は致命的です。重度のエネルギー輸入依存と製造業中心の構造であり、原油価格高騰によるコストプッシュインフレ待ったナシの状況に、円安が追い打ちをかけます。経済状況は厳しくなるしかなく、利下げをして経済を底支えしたくても、インフレと為替を考えると利上げをせざるを得ないという、スタグフレーション一直線の状況。日銀は難しい舵取りを迫られます。
韓国や台湾はテクノロジー優位性はあるものの、やはりエネルギー依存が大きなネック。新興国指数は大きく下落しており、原油高の影響を大きく受けます。

ぶっちゃけ、今回の戦争で儲かっているのは米国軍需産業です。イランの安価なドローンやミサイルに対し、米国は1発約400万ドルの高価な迎撃システムを使用しており、開戦からわずか6日間で戦費は113億ドルに達しました。これにより、PAC-3などを増産する「ロッキード・マーティン」、パトリオットの管制システムを担う「RTX」、B-2ステルス爆撃機を展開する「ノースロップ・グラマン」の業績が急拡大見込み、各社の株価が急伸しています。

米国はやはり強いが金利動向に注目
結果がどうであれ、アメリカの経済の強さがよく分かるのが今回の戦争です。ただし金利の動向には注目が必要だと思います。
通常、こうした有事では株式が売られ安全資産である国債が買われ、つまり長期金利は下落するわけですが、今回の動きは逆でした。原油急騰によるインフレ懸念が大きく、つまりFRBの利上げ予想を背景に金利が上がった(債券が売られる)のです。現在も、この2つの綱引きは行われており、ボラティリティは高止まりしそうです。
またインフレ懸念→金利上昇は、プライベートクレジットにダメージが入り、借入の多いテクノロジーセクターなどの株価を押し下げます。ただ、今回のAIブームでは、その主役がハイパースケーラのようなキャッシュリッチな企業群であり、金利上昇の影響をさほど受けないというのが、過去との違いでしょうか。
おそらく、株価への影響よりも日本の生活に対する影響のほうが大きくなりそうです。いまはまだ「原油が高い」というだけで、ガソリンや物流費はじめさまざまなものに価格が転嫁され始めるという状況ですが、ホルムズ海峡の封鎖が解けなければ、「原油がない」という状況に早晩なります。
そうなると、物資の生産もできず移動もできず、経済も生活も止まる事になりかねません。ホルムズ海峡閉鎖について一刻も早い外交的な解決が期待されるところです。