総資産の棚卸しであるアセットアロケーション報告を毎月月末に行っています。その中で、資産額評価をどうしようか悩んでいたのが太陽光発電です。前回のアセットアロケーション報告では、実際に支出した金額、つまり簿価をそのまま資産額として計算しました。
しかし本当は、企業価値の算出と同じように、DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法によって導き出すべきでしょう。それに今回はチャレンジしてみます。
なぜDCFか?
ディスカウント・キャッシュフロー法とは、その事業(や企業)が将来得られるであろう利益を、一定の率で割り引いて現地価値を算出する方法です。
産業用太陽光発電の場合は、20年間の買取価格が固定されていて年間の発電量も大幅にはブレないことから、ほぼプロジェクト末期までの利益が計算できます。そのため、20年分の利益を合計して、初期投資額を引いた残りを現在価値としてしまう方法もあります。2000万円で低圧太陽光発電所を買ったとします。20年間の売上合計や約4000万円です。だから4000万円の価値としてしまう考え方です。
ただし、これは2つの点で過大評価につながるでしょう。
ひとつは、初期投資額を太陽光発電ではなく他の投資先に振り向けた場合に得られたであろう利益が無視されてしまう点です。2000万円で米国債を買った場合、通常資産価値は2000万円とします。ところがこの債券は毎年約3%、60万円を産んでくれます。太陽光発電の売上合計ロジックはこの60万円を含んだ計算で資産価値を計算しているわけですから、同じ土俵で比較ができないですね。
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二つ目は、投資リスクです。太陽光発電は非常に安定した売上を誇りますが、一方で災害や法律の変更、発電抑制などのリスクも抱えています。このリスクを現在価値の評価には織り込まなければいけません。
となると、通常の企業価値を算出するときと同じように、DCF法で現在価値を計算するのが妥当だと思いました。
DCF法とは何か?
ディスカウント・キャッシュフロー法とは、将来のキャッシュフローを一定率で割り引いて現在価値を算出します。将来のキャシュフローとは、いわゆるフリーキャッシュフローですね。さまざまな計算方法がありますが、一般的には営業利益から法人税を引いて、減価償却費を足し、新規設備投資額を引いたものです。
やさしく言えば、口座に入ってくる現金から払った現金を引いたもの。お小遣い帳と同じです。
P/Lを試算してみると、太陽光発電は設備投資額が大いためコストにしめる減価償却費額が大きく、キャッシュフローは意外に変動します。先日の「太陽光発電のキャッシュフローの出方」の記事から、キャッシュフロー部分だけ抜き出したのた下記のグラフです。
DCFでは、この毎年の想定キャッシュフローに対して、一定率で割り引いていき、それを合計します。例えば毎年100万円のCFがあるとして割引率が5%なら、1年目は95万円、2年目は90.7万円、3年目は86.3万円……という具合です。
将来の利益ほど低い評価となり、割引率が大きいほどその下がり具合は加速します。6%で割り引いて評価した場合(赤棒)と、2.1%で割引評価した場合(黄棒)のグラフが下記になります。
この20年分の棒を合計したものが現在価値評価、つまり現在時点での資産価値とするのがDCF法です。
割引率が最大のポイント
さきほど6%で割り引いた場合と2.1%で割り引いた場合で、全然評価額が変わることが分かりました。特に、後半のラスト5年は大きな違いです。このように、DCFでは割引率をいくらにするかが評価額をほぼ決定します。
一般には、割引率にはWACCと呼ばれる加重平均資本コストを使うとされています。事業に必要な資金は、Debt(借り入れ)とEquity(株式)で調達します。Debtの貸主は利子を払うことを要求し、Equity出資者は株価上昇なり配当なりのリターンを求めます。それぞれが一定の利回りを求めるわけです。
この要求される利回りを加重平均したものがWACCです。資金の出し手が要求する利回りといえます。これが例えば6%ならば、その事業は最低6%以上のリターンを生み出すことを要求されていることになります*1。
割引率が高ければ将来CFの割引が大きくなるので現在価値は減少します。逆に割引率が低ければ現在価値は大きくなります。
これはDCF法がM&Aなどで企業の価値を算出することに使われることからも分かります。同じ利益計画でも、6%のリターンを期待しているならその企業の価値、つまり買収金額は小さくなりますが、2%のリターンでいいなら高い値段で買収するのもありだからです。
太陽光発電のWACCをどう考えるか?
問題はWACCをどう見積もるか? です。WACCの違いで現在価値は多く変動するからです。いろいろ調べてみたのですが、求めるリターンをそのまま使えばいいというような、ざっくりした理屈も多くありました。さて困った。
さらに面倒なWACCではなく、キャップレートを割引率として使えばいいという話もあります。不動産投資などではWACCではなくキャップレートを使うのが一般的なようです。類似取引のキャップレートを参考にしたり、リスクプレミアムを使うという方法があります。
リスクプレミアムを使う場合、リスクフリーレート+リスクプレミアムです。日本ではリスクフリーレートは限りなくゼロなので、要はリスクプレミアムをどう見積もるかという問題になります。これもなんとも言えないですね。
そこで類似取引で使われている割引率を調べてみました。
- いちごグリーンインフラ投資法人 2.1%
- 東京ガスにおける 3.4%
- 株式並み? 6%
いちごグリーンインフラ投資法人では割引率に2.1%を使いDCF法で事業を評価した上で、投資可否の判断材料にしているようです。東京ガスのようなインフラ企業では3.4%で時価総額が適正か判断されているようでした。株式並みのリスクプレミアムならば6%くらいかなという感じですが、さすがにこれは高すぎでしょうか。
太陽光発電では、企業のDebtと違って毎年元本支払いがあります。そして元本支払いはCFに影響を与えます。そのため、割引率を求める際にDebtの利子率を加重平均する必要が本当にあるのか疑問でした。ここもWACCを使うと面倒な理由のひとつです。
ところが、いちごグリーンインフラの2.1%は、ちょうど借り入れの利率とイコールです。この2.1%を使うのは悪くありません。
WACCとNPV、IRRの関係
ここでWACCとNPV、IRRの関係を確認しておきます。IRRは、その投資が生み出すCFを元に実際の収益率は何パーセントなのかを表したものでした。NPV(Net Present Value)は、一定の割引率で割り引いた場合に、その現在価値はいくらなのかを示すものでした。
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これはつまり、IRRはNPVがゼロになるような収益率だということです。ある事業でIRRが10%だとして、10%の割引率でNPVを出すとゼロになります。つまり、期待するリターンよりもIRRが高くなければ現在価値(NPV)はゼロかマイナスだということです。
WACCがIRRと同じならば、やはり現在価値はゼロになります。投資判断にあたっては、WACCよりIRRがどれだけ高いかが基準になります。
IRRは単純にいうと、複利運用される定期預金に資金を預けた場合と比較できる利回りです。
この関係から考えると、やはり定期預金レベルのリスクならば定期預金並みのリスクプレミアム(0.1%くらい)、ソフトバンク社債なみのリスクなら2%くらい、株式並みのリスクなら6%くらいのリスクプレミアムと考えると、だいたい正しい評価になりそうです。
太陽光発電のリスクは定期預金よりはあるでしょうが、ソフトバンク社債より大きいかというと疑問です。ということは、保守的に先の2.1%を使うのはやはり悪くなさそうです。
低圧太陽光の現在価値は?
では割引率2.1%の前提で、先に試算したCFを割り引いて現在価値を算出してみましょう。すると、8,641,711円となりました。
この事業を始めるのに必要な資金は、土地の購入代金などを含めて、4,500,000円です。現在価値860万円の事業を450万円で購入する。つまり、十分に投資価値のある対象だということが計算から分かりました。
ちなみに株式並みの割引率6%でDCF法算出した場合も、5,831,095となりますのでOKな感じです。これは別の視点でいうと、IRRが9.1%あるということです。
450万円の現金が、いきなり860万円の資産に変わるということですから、なんか計算上の錬金術のようですが、適正評価されていない株式を安く買ったとたん、適正価値に値上がりしたようなものなのでしょう。
次回のアセットアロケーション報告では、こちらの前提に基づいて太陽光発電の資産を計算して総資産を出したいと思います。ただ、まだ発電所は稼働していませんし、初期投資予定のキャッシュも一部しか支払いが済んでいません。実際に発電所が稼働するまでは前回同様に支払い済みのキャッシュのみを資産計上するという原価計上方式で行うパターンと、太陽光発電所資産額から未支払いのキャッシュ分を減額するという方法が考えられます。今回せっかくいろいろと計算したので、後者の未払いキャッシュ分減額方式で次回は計算してみようと思います。