FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

Web3 サーバとローカル、または信頼とトラストレスの振り子

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このところ、クラウドが花盛りです。いまや、個人も企業もサーバにデータを保管するのが当たり前だと受け止めるようになっています。でも、これは一時的なことの可能性が高いのではないでしょうか。コンピュータの始まりから、サーバとローカルは行ったり来たりを繰り返してきているのです。

猫も杓子もクラウドだけど

ネット上のサーバ、しかも自分専用のサーバではなく、共用のサーバ、いわゆるクラウドが花盛りです。個人がデータを保存するのはもちろん、企業も基幹の重要データをクラウドで管理するようになりました。アプリケーションといえば、ほんの20年前までは手元のコンピュータで動作するのが当たり前だったのに、今はほとんどがサーバで動いていて、手元のコンピュータはブラウザが動いているくらいです。

 

思い起こせば、こんなクラウド万歳の世の中になる転機となったのはGmailではないでしょうか。2004年にβ版を開始したGmailは、2006年に招待制からサインアップに移行。一気にユーザーを増やしました。

 

信じられないかもしれませんが、それ以前は企業やISPが独自のPOP3/SMTP——いわゆるメールサーバを立てて、ローカルPCにメールソフト(EudraとかThunderboltとか)を入れて、メールを取得したらローカルに保存するのが当たり前だったのです。PCのリプレイス時にはメールデータを移行しなくてはならず、メールソフトの変更は過去ログをどうするか悩む、一大作業でした。

 

「会社の重要なデータをクラウドになんてあり得ない」。企業がそういうのが当たり前だったのは、遠い昔ではありません。今でこそ、クラウド会計とかいって、財務データをサーバに上げて計算もするのは当たり前ですが、ちょっと前までは、持ち出し禁止の専用PCでしか経理作業はできなかった時代もあるのです。

ローカルからサーバは進歩なのか

このように、ローカル環境にデータを保存し、ローカルでアプリケーションを動かす環境から、サーバですべて動作させ、ローカルは閲覧と動作をメインとするWebブラウザが動けばいい。こういう世の中にはなるのは、進化なのでしょうか。

 

確かにクラウドで動かすことのメリットはいろいろとあります。しかし、ぼくが思い出すのは、その昔、インターネットが生まれた頃のUNIXサーバと、X端末(ダム端末)の構成です。

 

1990年代、インターネットがまだ大学を中心としたネットワークだった頃、研究機関や大学にあるUNIXマシンが専用線を使ってネットワーク接続されていました。このUNIXマシンは非常に高価であり、利用者はタイムシェアリングによってサーバのリソースを使えていました。このとき、LANでUNIXマシンに接続する端末を「X Window System、X端末、ダム端末」と呼んだのです。ちなみに、自宅からモデムを使ってUNIXマシンにダイヤルアップして接続していたのは懐かしい思い出。300bpsくらいの時代でした。

 

さて、このX端末、ローカルストレージはなくて、本当に単なるディスプレイとキーボードでした。UNIXマシンにアカウントを作ったら、アカウントごとにストレージが割り当てられて、グラフィカルな画面(X Window)もUNIXマシンで動作したものが、単に手元に映るだけです。

 

そう、この時代、データはすべてサーバにあって、ローカルの端末はディスプレイとキーボードという入出力用のデバイスだったのです。そこから、どんどんPCが安くなって、ローカルのPCでもUNIXマシンと同等のことができるようになり、PCの民主化と呼ばれました。大型コンピュータは時代遅れと呼ばれ、PCというのは一人1台の時代になっていったのです。

データは誰のものか

そんなローカルで何もかも動くようになったものが、今度はまたサーバに主軸が移り始めます。ネットワークはダイヤルアップよりも安く高速になり、銅線に縛られることもなくなったけれど、再びサーバに接続しなければ何もできない時代になったのです。

 

でも再び、サーバからの回帰の兆しも見え始めています。それは、データが「現代の石油」と呼ばれるほど、重要な資源になってきたからです。GAFA、BATといったメガIT企業の強さは、大量のデータを取得できるところにあります。AIがすべてを変えていく時代にあって、AIを進化させる最大の燃料はデータです。とにかく大量のデータを押さえたところが勝つ。これはもう10年くらい前から言われていましたが、それがまさに現実になってきています。

 

では、そのデータは誰のものなのでしょうか。いま僕らは大量のデータをクラウドに保存しています。でも、そのデータは規約上、サービス提供企業側も閲覧して活用しているのです。GoogleがGmailやGoogleドライブの内容を読み取って機械学習に活用しているのはご存じの通り。企業向けSaaSだって同じです。クラウド会計のfreeeは、大量の顧客の仕訳データを機械学習して、AIの精度向上を図っています。これらは仕訳AIの精度向上だけでなく、企業の与信AIにも使われています。

 

つまり、クラウドの時代にあって、データはユーザーのものであって、かつサービス企業がけっこう自由に使えるものなのです。Zaimやマネーフォワードといった家計簿サービスでも、ユーザーの家計簿情報を統計処理して定期的に公表していることは、知っている人は知っています。

 

ユーザーデータをうまく使えば、とてつもなく効果的なパーソナライズ広告が実現できます。今、これを最もうまくやっているのがMeta(旧Facebook)でしょう。そのため、米国ではメガIT企業が保有するデータ規制の動きがあります。

 

問題は広告だけではありません。Googleの規約に反するようなものがドライブにアップロードされたという理由で、アカウントが停止されたという話は、たまにネットでも話題になります。これは、データ自体を見張られているということであり、自分のデータなのに自由にはできないことを意味しています。

 

Kindleデータも象徴的です。購入した電子ブックは、自分のものになったわけではありません。単に閲覧の権利を購入しただけです。だから、Amazonがアカウントを停止したら、それまで購入したKindle本がすべて見られなくなるのです。

 

このように、有料か否かに限らず、いま最も重要な資源であるデータについて、ユーザーは全面的な自由を持っていません。便利だからとメガIT企業のサービスにデータをアップロードしたら最後、それは自分のものであって、自分のものではなくなってしまうのです。

信頼かトラストレスか Web3

このことは米国では既に問題になっています。日本ではまだそこまで問題になっていませんが、それは法律や契約を重視する米国とは違い、日本では規約がどう書かれていても民意に反した内容だったら後から糾弾されるのが当たり前だからかもしれません。ユーザーの乗車情報は、統計処理しても販売したらダメとされる国なのです。でも、早晩日本でも社会問題化するでしょう。

 

これに対する一つの方向性は、再びローカルに戻ることです。データは手元のストレージに保管するようにして、アプリケーションはローカルのCPUで走らせる。マルウェアやハッキングの可能性があるので、できるだけネットワークにはつながない。こんな未来も一つの選択肢です。

 

端末はあくまでクラウドデータの閲覧デバイスという立て付けのAndroidではなく、「あなたのプライバシーを守ります」とうたっているiPhoneがそれに近い方向かもしれません。Appleがハードウェア事業で利益を上げている限り、Appleのクラウドサービスは古典的なユーザー利益を守ってくれるという期待もあります。

 

もう一つの方向性が、トラストレスです。いまふうの言葉でいえば、Web3です。これは、ブロックチェーンを使ってインターネットの仕組みを作り直そうという取り組みの総称で、けっこうなバズワード化してきています。

 

ビットコインに主体的な管理者やオーナーがいないことはよく知られています。数多くの参加者の緩やかな総意によって運営されており、根本のルールはアルゴリズムで定められています。こうした、オーナーや管理者がいない組織のことを、DAO(Decentralized Autonomous Organization、自律分散型組織)といいます。

 

Web3では、従来のWebの仕組みをブロックチェーンを使って分散型、つまりDAOに切り替えようとしています。どんなイメージでしょう?

 

例えば、「Web3ストレージ」と呼ばれるIPFSはその代表例です。これは、データを特定のサーバにおかず分散して保存する仕組みのことで、P2P形ストレージとか分散型ファイルシステムとか呼ばれたりもします。実は、考え方としてはWinnyとかBitTorrentとかと同じ。でも、ブロックチェーンを基盤とすることで、Filecoinというトークンが存在しており、それをインセンティブとするエノコミーが存在することが違う感じです。

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さらにIPFSは単なるストレージに留まりません。Webページの基本的なプロトコルであるHTTPを補完、または代替を目指しています。HTTPとは、サーバにあるHTMLなどのコンテンツをインターネットを介して取得してブラウザで表示するためのプロトコルです。要は、特定のファイルにアクセスするための仕組みです。分散型ストレージであるIPFSにWebコンテンツを置いて、そこにアクセスしてWebを表示すれば、検閲も改ざんもサーバダウンもおきないWebページができあがるというわけです。

 

ブロックチェーンは、間にあるサーバや組織などを信頼する必要なく動作するという意味で「トラストレス」な仕組みだと言われます。IPFSのようなWeb3技術は、メガIT企業が「信頼できない」状況になってきたことから、「信頼が不要」なトラストレスを目指して開発が進んでいるともいえるでしょう。

 

www.kuzyofire.com

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