投資ポートフォリオをどうするか考える上で、最も大きな問題は「株式100%とするかどうか」ではないでしょうか。これさえ解決すれば「S&P500かオルカンか」とかは些細な問題です。一緒に考えてみましょう。
分散の威力
現代ポートフォリオ理論をかじったことがある人なら、分散は投資における唯一のフリーランチだということは知っていると思います。互いに相関しない資産を同時に持つと、リターンを落とすことなくリスクだけを減らせるというものです。
だから、単体で株式を持つよりも互いに相関の小さい株式を持つことで、リスクあたりのリターンが向上します。さらにいえば、市場全体の株式を時価総額加重平均で持てば、理論上、最もリスクあたりリターンが高くなります。いわゆる効率的フロンティアのうち、接線ポートフォリオってやつです*1。
ここまではみんな悩みがないところ。分散すればするほどいいわけで、だから全世界株式を時価総額加重平均で購入するオルカンが最適解だという話になるわけです。
株式以外を入れなくていいのか?
株式を広く分散して保有することのメリットは分かった。では株式以外は入れ込む必要はないのでしょうか? 分散するほどリスクあたりリターンが上がるという話でいえば、株式だけでなく債券や金、不動産などもポートフォリオに入れたくなります。
実際、現代ポートフォリオ理論であるCAPMがいう「市場ポートフォリオ」というのは、別に株式に限らず、市場で取り扱われているすべての商品を時価総額に合わせて保有するものだとされています。
各商品の時価総額を見ると、株式と債券が同じくらいで約120兆ドルくらい。金地金が15兆ドル、不動産228兆ドルなどといわれています。また、ビットコインと銀が1.4兆ドルくらい。単純にこれを時価総額で比率を出すと、下記のような比率になります。
- 株式 25%
- 債券 25%
- 不動産 47%
- 金など 3%
このそれぞれは値動きが異なるので、分散して持つことで効果を発揮するでしょう。ただし、そこにはいくつかの問題があります。
そのアセットを幅広く持てるのか
一つはテクニカルな問題です。株式は全世界株式インデックスがあり、それに投資できるETFがあります。でも債券はどうでしょうか。例えば、米国だけに限っていえば、総合債券ETFであるBNDやAGGは、時価総額加重平均で債券を保有するのに便利です。国債だけでなくMBS、社債などを広く組み込めます。
米国以外の国債・社債についてはBNDX ETFが有名です。またIAGG ETFもありますね。米国以外の国債・社債についてパッケージにしてくれています。BNDXのほうは、国内証券会社でも購入可能です。
ただし、BND/AGGやIAGGはいずれも投資適格債券です。本当の意味で全債券に分散というなら、投資適格でないハイイールド債も組み込みたいところ。ただ米国のハイイールド債ETFであるJNKやHYGの、全世界版があるのかどうか、ぼくは見つけることができませんでした。
不動産も厄介です。不動産市場全体はとんでもなく大きいのですが、これに簡単に投資するとなるとREITを使うしかありません。ところが全世界のREITの時価総額合計は1.7兆ドルしかないのです。一応、全世界のREITに投資するETF「REET」というのはあって、レジデンスから産業、病院データセンターまで、さらに米国を中心に豪州、日本、英国などの地域も分散してくれます。ただし中国や途上国は入っていませんね。
REETは国内証券会社で取り扱いがありませんが、「NEXT FUNDS外国REIT・S&P先進国REIT指数(除く日本・為替ヘッジなし)連動型上場投信(2515)」に国内REITを組み合わせれば、ほぼ同じになりそうです。
というわけで、REITで一応全世界に投資はできるものの、果たしてREITを組み込めば、不動産全体に投資しているのと同じになるのかどうか。REITは不動産を代表しているというには、あまりに株式に価格が連動し過ぎだという嫌いもあります。さらにREITをどのくらいの比率で組み込むのかも問題です。世界の不動産時価総額ベースで、総資産の半分をREITにつぎ込むべきなのでしょうか。
投資環境が整備されている株式とは違い、そのほかの資産は時価総額加重平均で全世界に投資するにはまだ商品整備が足りていない感があります。
株式以外を入れるとリターンは悪化する
そしてもう一つの問題は、株式以外のアセットを入れると、リターンが悪化するという問題です。株式100%と、株式と債券50%:50%を比較すると、リスクは債券を入れたほうが大幅に下がるのですが、相応にリターンも下がるのです。リスクあたりリターンは向上しても、絶対的なリターンの水準が下がるということは、投資先としてどうでしょうか。
理論的にはそれは問題にはなりません。だってリスクあたりリターンが高いなら、リスクが同じになるようにレバレッジをかければ、同じリスクなのにリターンが高くなるのですから。絶対的にリスクあたりリターンが大きいほうが正義なのです。
ところが実務的にはそうはいきません。レバレッジにはコストもかかるし取引も煩雑です。先物などを使えばまだマシですが、日次リバランス型のレバレッジファンドは減価するという問題もあります。株式はまだデリバティブも整っていますが、債券やREITはどうでしょう。必ずしも簡単にレバレッジが掛けられるとは限りません。
理論的には正しくても、実務的にはレバレッジをかけて長期投資をするのはいろいろとハードルがあるわけです。そしてレバレッジをかけないなら、分散を広げてリスクあたりリターンを上げるよりも、相応のリスクと相応のリターンを持っている株式に投資するのが正解ということになりがちです。
株式100%はリスク取りすぎなのか?
分散すれば投資効率は向上するが、実務的には株式以外を入れ込むとリターンが小さくなりすぎるというのが問題でした。でも、無理に大きなリターンを目指さなくてもいいんじゃないか? という疑問も湧きます。
株式の期待リターンは6〜7%程度です。これを大きいと見るか小さいと見るかは見方次第ですが、半分の3%程度でも十分だという見方もできます。これが株式と債券の50%ずつのポートフォリオです。
ただここで見落としてはいけないのは、人は人的資本という形で債券的な資産を持っているということです。働けば毎月安定した収入があるというのは、満期60歳で元本は返ってこない債券を保有しているようなものです。この人的資本は、50歳までの間は軽く1億円を超えているのです。
実際には人は、この人的資本と金融資産をミックスして持っていて、いわばポートフォリオを組んでいることになります。つまり、特に若いうちは株式100%の金融資産であっても、債券的な人的資本とセットで考えると、全然リスクは大きくないわけです。
要するにほとんどの場合株式100%でいい
というわけで、結論としては、ほとんどの場合は株式100%のポートフォリオで構わないということになります。特に若年層の場合、資産のほとんどが人的資本であり、株式100%でもリスクが足りないくらいです。
まだ人的資本のほうが大きいのに、株式以外のアセットクラスを入れ込むなら、(リスクを取りたくない保守的な人は別として)レバレッジを検討する必要があるでしょう。ただそれは非常に難易度が高いと思います。
年齢が上がっていくにつれて人的資本が減っていくので、金融資産のリスクがダイレクトに影響してきます。このときに初めて、株式以外のアセットを組み込んで、分散のメリットを得るとともに、リスクもリターンも減らしていくのが良さそうだと思っています。
*1:もちろん効率的市場仮説が成り立ち、すべての投資家が合理的であるという仮定のもとですけど。