ローンの借換えについて、前回の(1)では金利や期間が変化すると、支払う利息の総額はどう変化するかを計算して見てみました。期間が長くなるほど、同じ条件でも支払う利息は増えるんですね。ただ期間が長くなると月々の返済額がその分減少します。これをどう評価するのがいいでしょうか。
返済期間が長くなるほど総支払利息額は増える
まず前回のおさらいから。他の条件が同じ場合、返済期間が長くなるほど総支払利息額は増えます。下記は1000万円を金利2%で借りたときの総支払利息額です。30ヶ月に比べて、180ヶ月では約6倍に、360ヶ月では12.7倍に増えます。
これはまぁ言ってみれば当たり前で、借金というのは時間と金利の掛け算ですから、長期間借りるほど支払う利息は増えるのです。住宅ローンとかでもそうですが、総支払利息額を減らそうと思ったら、期間を短縮するほうが有利。だから繰り上げ返済を行うわけですね。
ちなみに、期間の増加と総支払利息額の増加は比例はしていなくて、総支払利息額は返済期間の増え方よりも増加傾向にあります。逆に月々の返済額は、返済期間の増え方よりも減少傾向になります。
返済期間が伸びることの意味
総支払利息額が増えるなら返済期間を長くすることの意味はどこにあるのでしょう? 一つは月々の返済額が減ることです。住宅ローンであれば、月々の返済額を減らせば給与の中から無理せず返済が可能です。事業ローンや不動産ローンであれば収益の範囲内で返せる額でないと、キャッシュフローが赤字になってしまいます。
確かに赤字はよろしくありません。困ったものです。でも黒字ならばさらに期間を延ばして月々の返済額を減らすことに意味はあるのでしょうか?
例えば、ぼくの太陽光ローンなどは、発電所1基あたりざっくり1300万円くらい2.1%で借りています。年間約200万円の収入に対してローンの返済は100万円程度。諸経費などは多少かかりますが、だいたい100万円くらいのCFが出てくる感じです。このローンが15年間なので、総返済額は1500万円。うち利息は200万円という感じです。
このローン期間を延ばしたら、どうなるでしょうか? 通常の15年が19年に伸びた場合を考えてみます。下記のように、総支払利息額は200万円から260万円へと28%ほど増加します。
一方で月々の返済額は減ります。月々8.3万円→6.8万円へと18%減る形です。
これはどっちが有利なのでしょう? これは期間を延ばして返済額を抑えることのメリットを考えていますが、逆にいえば返済額を増やして期間を減らすのがいわゆる「繰上返済」です。この2つは表裏の関係にありますね。
現在の1万円と将来の1万円
この問題を考える上で大事な概念は、「現在の1万円と来年の1万円の価値は同じか?」という時間価値の考え方です。投資をやっている人ならご存知の通り、現在の1万円は来年の1万円より価値があります。その1万円を定期預金などに入れておけば、金利が付くからです。
例えば5%の金利が付くなら、現在の1万円の価値と、来年の1.05万円の価値がイコールだということになります。逆にいえば、来年の1万円を現在の価値に直すと、9523円になります。1万円を金利である1.05で割った結果ですが、これを「割り引く」といいます。
これは借金の場合も同じで、今年返さなければいけない1万円と来年返さなければならない9523円の価値は同じ。つまり、返済を待ってもらえるほど=返済期間が長いほど、借り手には有利になるということです。
つまりローンの返済期間を長くすることのメリットはここにあります。将来の返済額を割り引いて現在の価値に換算し、現在価値同士で比較すると、総支払利息額が増えたとしても返済期間を長くしたほうが有利になる場合があるのです。
現在価値の計算
ではこれをどう計算しましょう? 概念的には、返済額を全部足し合わせて少ないほうが有利となりますね。その際に、今年の返済額はそのまま、来年の返済額は1.05で割って割り引いて、2年後の返済額は1.05の2乗で割り引いて……と全年月について割引の計算を行い、それを足し合わせればいいことになります。
スプレッドシートにはこれを簡単に行う関数が用意されていて、NPV(Net Present Value=割引現在価値)関数といいます。下記のような感じで、毎年の収入や支払い(返済)をNPV関数に入れてあげます。その際に何パーセントで割り引くかを決めてあげます。
この場合だと、単に合計すると100が7個で700になるはずですが、5%の割引率で現在価値を求めると576になります。未来の返済額の価値は100より小さいからです。
割引率と期間の関係
直感的に、割引率が大きいほど、未来の返済の意味が小さくなることが分かります。つまり割引率が大きくなるほど、返済期間が長くなることの意味が大きくなるということです。
では具体的にどんな数字になるでしょうか。借り入れ1000万円、金利は2%とおいて、変数として割引率を0%・1.65%・3%・5%、期間を30ヶ月、180ヶ月、360ヶ月として、割引現在価値を計算してみました。
なかなか面白いと思いませんか? まず割引率が0%というのは未来のキャッシュフローを全く割り引かないということなので、総支払利息額のことを意味します。見ての通り、返済期間が長くなるほど現在価値も大きくなります。ここでいう現在価値は「支払わなければいけない実質的な金額」ですから、返済期間がながいほど不利だということです。
実際、割引率0%の場合、1000万円の借り入れに対し、180回払いにすると約100万円支払額が増加し、360回払いにすると270万円も増加します。
ところが、割引率を1.65%にすると、30回・180回・360回の割引現在価値はほぼ同じになります。そして、割引率が3%になると、傾向は逆転し、180回払いのほうが支払わなければならない実質的な価格は80万円少なく、360回払いになると140万円も減ります。そして割引率5%だと、さらのその差は大きくなります。
つまり、借り入れにおいて期間を長くすると、割引率が小さいとデメリットですが、割引率が大きければメリットになるわけです。そのポイントは割引率だと。
割引率とは?
ではカギを握る割引率とはいったい何でしょうか? いちばん簡単な考え方はインフレ率です。インフレはモノの値段が上がっていくことですが、これは同時にマネーの価値が下がっていくことを意味します。インフレ率が2%なら、毎年2%ずつマネーの価値は下がっていく。だから、今年の1万円よりも来年の1万円の価値は低いわけで、インフレ率=割引率と考えていいわけです。
ただ割引率はインフレ率だけで決まるものではありません。最初の例で、銀行定期預金の例を出しました。預金金利が5%なら、割引率は5%と考えればOKなわけですが、ここで預金ではなく株式投資を行って毎年10%のリターンが得られるならどうでしょう。当然割引率は10%で考えればOKとなります。この投資における期待リターンを割引率と見ることもできます。
ただし、ローン返済額の現在価値を計算するときに、投資における期待リターンをそのまま持ってくるのは危険です。投資における期待リターンの計算では、リスクが高いほどリスクプレミアムが乗ることから、割引率が高くなり、結果現在価値が低くなる(=その投資に対する評価が下がる)ことになります。一方、ローン返済の場合は現在価値が低いほどその支払い方法の評価が高いことを意味するので、そのまま使うのは危険です。
そのため、国債などの無リスク金利を割引率として使ったり、ローンの金利そのものを割引率として使うことが適切だったりします。
さて、金利と返済期間の関係がやっと整理できました。次回は、これに基づいて、実際のぼくの太陽発電所を借り換えたほうがいいのか、具体的に計算してみます。