このところいろいろと忙しくて、ブログを書く時間が取れなくて、何日も空いてしまいました。満を持して大作を……と考えると、これがまた億劫になってしまって書けなくなるので、軽く経済ネタを。
- 世界中で金利が上昇している
- 金利上昇は、将来利益の現在価値を下げる
- 金利が上昇すると、株の相対的な魅力が下がる
- 金利が上昇すると、企業の資金調達コストが上がる
- それでも株価が上がるのはなぜか?
- 利益成長か投資家の楽観か
世界中で金利が上昇している
世界中で金利が上昇中です。一般に長期金利と呼ばれる10年もの日本国債の利回りは2.8%まで上昇。これは1997年5月以来、29年ぶりだといいます。超長期の30年債利回りは4.2%に。

※日本国債が世界の金利上昇を主導、中東懸念巡りインフレ警戒感
海外でも金利は上昇中で、米10年債利回りは4.63%、米30年債利回りは5%を超えています。ドイツ30年債利回りも15年ぶりとなる高水準で3.71%です。
これはイラン情勢を背景にインフレ懸念が世界的に再燃したせいだと言われています。ただ、ここで気になるのは金利上昇だけでなく、株式のほうです。18日は株価も下げましたががこれは「金利上昇が理由」という報道を多く聞きました。でも、なぜ金利が上がると株価が下がるのでしょうか。
金利上昇は、将来利益の現在価値を下げる
金利上昇が株にマイナスな理由の1つ目は、キャッシュフローの話です。妥当な株価を計算する方法の一つに、DCF=ディスカウントキャッシュフローがあります。これは、
株式は、企業が将来稼ぐ利益やキャッシュフローへの請求権である
企業価値≒将来キャッシュフローの現在価値
というもので、要するに株式を持つとは、その会社が将来生み出す現金を受け取れる権利。だから、将来生み出す現金を全部合計したものが、株式の価値だというものです。
例えば、毎年100万円稼ぐ会社の全株式をいくらで買いますか? 将来稼ぐ利益額の合計は無限大になってしまいますが、1年後の100万円と2年後の100万円の価値は違います。そう、未来になるほど価値は下がるのです。
ではどのくらい下がるかというと、それが金利です。金利が高いほど将来のお金の価値は下がります。そりゃそうです。100万円を預金しておけば、高金利ならたくさんの利子が付くのですから。
- 割引率(≒金利) 10年後の100万円の現在価値
- 1% 約90.5万円
- 3% 約74.4万円
- 5% 約61.4万円
同じ100万円でも、金利が高い世界では現在価値が小さくなります。つまり株価は低くなります。これが金利上昇が株価にマイナスの理由です。特に、利益の多くが将来にある企業、いわゆるグロース株と呼ばれる銘柄は、大きくマイナスの影響を受けます。
金利が上昇すると、株の相対的な魅力が下がる
株式はリスク資産です。価格は変動するし、業績が悪化すれば損も出ます。だから、国債や預金の利回りが上がれば投資家はこう考えます。「わざわざ、株式リスクを取らなくても、債券を買えばそこそこな利回りが得られる」
債券を買えば元本保証で5%のリターンが約束されているのに、リスクを取ってまで期待リターン5%の株式を買う人はいません。逆にいえば、株式にはもっと高いリターンが求められます。
これまで利回り5%だった株式が、7%のリターンが求められるというのはどういうことか。1株あたり利益10円の株が200円で取引されていれば、これは利回り5%です。そして利益は変わらないのにリターンが7%になるというのは株価が142円に下がるということです。ほら、そうすればリターンは7%になるでしょう?
これは別の式に書くとPERの下落です。利回り5%というのはPERが20倍ということと同義です。ところが金利が上昇して株に5%ではなく7%の利回りが求められるというのはPERが14.2倍に下がるということでもあります。
このような理屈で金利上昇は株価にマイナスの影響を与えます。
金利が上昇すると、企業の資金調達コストが上がる
世の中の企業の多くは、資金を借り入れて運営しています。そして金利が上昇すると借入金が多い企業ほど、支払い利息が増えます。コストが増え、その分利益が減る。1株あたり利益が減ることで、株価も下がるというロジックです。
特に影響を受けやすいのは、下記のような銘柄です。
- 不動産
- REIT
- インフラ
- 電力・公益
- 借入依存度の高い企業
- 財務体質の弱い中小型株
つまり、金利上昇によってEPSも減ってしまい、株価にマイナスの影響を与えるわけです。
それでも株価が上がるのはなぜか?
さて、ざっくりいうと金利上昇は株価にはネガティブな影響だらけです。ただ、世界的に金利上昇が続く中、実は株価も過去最高値を更新し続けてきました。これはいったいどういうことでしょうか?
株価を分解すると次のようにいえます。
株価 = EPS × PER
先ほど見たように、金利上昇はPERを押し下げる効果がありました*1。
でもEPSが、PERの下落以上に上昇すれば株価は上がります。そして現在はどんな状況かというと、インフレによって企業の売価は上昇し名目売上や名目利益、そして名目EPSを押し上げています。さらに、空前のAI投資ブームによって半導体を中心とした企業のEPSは強烈に上昇しています。
インフレや景気拡大によって企業の名目利益が増えれば、PERが下がってもEPSが伸びて株価は上がり得るわけです。理論的には。
利益成長か投資家の楽観か
さて、問題は本当にPER低下を帳消しにするほどのEPSが生まれているのかどうかという点です。そして実は、EPSは大して上がっていなくても、PERが維持されるという状況もあります。
前節で、債券と利回りが変わらないのにリスクのある株式を持ちたがる投資家はいないという話を書きました。でも、じゃあどのくらい高い利回りを欲するかは、そのときの人々のムードで変わります。
景気が悪く企業業績に不安が垂れ込めているときは、債券利回りに+5%くらいの利回りを要求する株式投資家も多いでしょう。でも、株式がブームで熱狂しているときは、債券利回りに+1%の利回りでも株を買う投資家がたくさんいます。この上乗せ金利が、いわゆるリスクプレミアムと呼ばれるもので、これは投資家のムードで大きく変化するのです。
つまり、長期金利上昇化の株高は必ずしも矛盾ではありません。それは金利上昇によるPER低下を、企業利益の増加がどこまで吸収できるかという数式上の解の一つです。ただし問題は、今の株高が利益成長に支えられれているのか、それとも投資家の楽観によってPERが維持されているのか、どちらなのかということでしょう。
*1:さらにいえば、金利上昇によるDCFの悪影響もPERの押し下げに当たります。企業が一定の成長率(g)で利益・キャッシュフローを増やしていくと仮定すると、理論株価(P)は、P=EPS/(r−g)となり、PER=1 / (r-g)。rは金利ですから、rが大きくなるほど分母が大きくなり、PERを押し下げるのです