FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

株価急落を乗り越える、長期投資の3つの考え方

今回の株価急落を前に、「早く逃げろ!」と言っている人と「慌てず持ち続ければいい」と言う人に分かれると思います。前者はタイミング投資家であり短期投資家、後者はインデックス投資家であり長期投資家である可能性が高そうです。どちらが正しいかという話は別稿に譲るとして、なぜ長期投資が推奨されるのか、改めてまとめておきます。

長期投資を行う3つの理由

投資とは「安いときに買って、高い時に売るもの」。これは一面の真実であり、これを実行するには大きく下がる前に売って、下がりきったところで買うという行動も理にかなったもののように感じます。

 

ただこの手法の最大の問題は、「今が安いのか高いのか」「これから下がるのか、上がるのか」が全く分からないということです。金融機関で働いている人はもちろんのこと、ファンドマネージャーやヘッジファンドの中の人、さらには凄腕個人投資家も含めて、これを高確率で当てられる人はまずいません。「当てられる」と言っている人は間違いなく詐欺だと思っていいくらいです。

 

これを前提とすると、投資は別の理屈で行う必要があります。それが長期投資です。

 

ではなぜ長期投資なら儲かるのか。その説明には大きく3つの方向性があります。「過去のエビデンス」「モデルによる数学的説明」「投資活動の論理的な説明」です。今回はそれぞれを見ていきます。

過去のエビデンス

過去のエビデンスというのは、要するに「これまで長期投資は報われてきた」という話です。太陽は昨日も一昨日も東から上ったので、明日も上るでしょうというような理屈になります。

 

これを最も端的に象徴するのがかの有名なシーゲル教授のチャートです。この100年において、株式は上下変動はありながらも一貫して右肩上がりで価値が増加してきたことが分かります。

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ただし、このデータからは株価のマイナスが続くことがあることも分かります。1996年から現在までの株式(S&P500)のリターンについて、3年間のリターン、5年間のリターンを見ると、その期間においてマイナスになっている場合がしばしばあります。

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さらにいえば1930年の世界恐慌の際には、株価は約3年かけて86%下落し、そこからの回復には18年もかかっています。長期投資といっても、5年や10年では報われない可能性がある。このことを踏まえて投資は行う必要があります。

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モデルによる数学的説明

長期投資を推奨するもう一つの説明が、株価変動のモデルを用いた数学的な説明です。株価の変動は、上がるか下がるかはランダムウォーク(幾何ブラウン運動)し、そこに期待リターンの分だけ上振れ(ドリフト)するモデルがよく使われます。これは正規分布だったり、それが時間的に連続した場合の対数正規分布になったりして、計算に使いやすいのが理由です。

 

このモデルが現実の株価の動きを正確に表すと考える人はだれもいませんが、基本的な部分では近い動きとなっており、シンプルなモデルだといえるでしょう。では、期待リターン7%(μ)、年変動率20%(σ)で複数年幾何ブラウン運動を繰り返した場合の株価はどんな値になるでしょうか。

 

データはつくだに博士の「幾何ブラウン運動のチートシート」をこちらのサイトからダウンロードしました。チャートの見方は次の通りです。

  • 縦軸:資産の増減(1.000は1倍、10.000は10倍)
  • 横軸:投資年数(1年〜50年)
  • 線:運の良さ(95%は上位5%に入る運。50%はいわゆる中央値)

これを見ると、まず中央値において、運用年数が延びるほどリターンが増加することが分かります。また運の悪い(下位数十パーセント)を見ると、運用年数が増えるほど元本割れの確率が減ることもわかります。

 

こちらの具体的な表を見たほうが分かりやすいかもしれません。赤い部分は元本割れですが、45年運用すると元本割れの確率は5%を下回ることが分かります。

ただ、このモデルは別の意味で面白いことも教えてくれます。

 

投資期間が長くなると、よく「リスクが低下する」という人がいますが、これは正確には間違いです。当然ですが、価格の変動という意味でのリスクは、期間が長くなるほど高くなります。ビットコインを10秒持つのと10日持つのとでは、どっちが大きく価格が動いている可能性が高いと思いますか? そういうことです。

 

下記はChandraさんのサイト「社畜がインデックス投資で資産を築く」から。確率分布をプロットしたものです。1年の投資の場合、投資結果のほとんどは1倍前後に集中しています。ところが運用年数が増えるに連れて大儲けの確率も高まります。そして反面、実は大損害の確率も高まるのです。

さらにいえば、運用年数が増えるほど、確率的には、リターンが大きい順に、平均値>中央値>最頻値 となります。そしてリスクが大きいほどこの3つの値の差は開き、リスクが一定を超えると、最頻値はマイナスになっていく場合もあるのです。

 

つまり株価がランダムウォークするというよく使われるモデルが教えてくれるのは、長期投資によって儲かるというのはあくまで「その可能性が高い」ということで、確実に儲かるどころか大損するリスクも高まるという、意外と直感的なことだったりします。

投資活動の論理的な説明

さて3つ目の説明が投資活動の論理的な説明です。どういうことか。

 

実は株式投資なんてしなくても、長期で確実に儲かる投資方法というのが世の中にはあります。確実に元本も利払いも保証されている(とされている)国債への投資です。金利は日本国債なら0.7%くらい、米国債なら5%くらい。これは保有し続けるという前提において、元本も保証されリターンも確実に得られるという投資手法になります。

 

では投資家はなぜ安心安全にリターンが得られる国債への投資ではなく株式投資を行うのでしょうか? それは国債よりも高いリターンを望むからです。ちょっと面白いのは、株式投資における高いリターンとは、企業業績がどうとかGDP成長がどうとか、そういうことは根本的には関係ないことです。ポイントはリスクプレミアムです。

 

例えば国債が1万円で売られていて利払いは500円(5%)だったとしましょう。1株あたり毎年500円の利益を生む企業の株価が同じ1万円ということはあり得ません。これだと利回りは5%になってしまい、それなら国債を買ったほうがいいからです。

 

利益が不安定な企業の株を買う理由は国債よりも高いリターンが得られるから。つまり10%のリターンを望むなら、株価は5000円でなければなりません。国債に上乗せされた5%の追加リターンのことをリスク・プレミアムと呼び、この分だけ株価は安くなります。同じリターン(国債の500円、株式の500円)を得られる資産なのに、安く購入できる。これが株式投資が高リターンな論理的な説明になります。

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これは長期で考えても論理的には同じになります。国債の利回りは上がったり下がったりしますが、必ずプラスです*1。つまり額はともかく長期で投資すれば、複利効果も働いて確実に儲かります。

 

そして株式は、国債に対してリスクプレミアムの分だけ高いリターンが得られます。国債が長期に確実に儲かるならば、さらにプラスリターンが得られる株式も長期になるほど儲かるわけです。

 

もっとも、リスクプレミアムはいつも合理的に付けられているわけではありません。リスクプレミアムの大きさは、一般的な傾向でいえばPERで測ることもできます。市場全体のPERが低いときはリスクプレミアムが大きくなっているときで、高PERというのはリスクプレミアムが小さくなっている場合です。

 

ピクテによると、2023年の10月には米国株のPERは高くなっており、リスクプレミアムはマイナスに突入していました。つまりこの瞬間を取って見れば株式よりも国債に投資したほうがリターンが大きい状態にあったということです*2

このように短期的には投資家はムードによってリスクプレミアムを高く付けたり低く付けたりするので、常に株式のほうがリターンが大きいとはいえません。でも長期で見ると、債券よりも高いリターンを株式には期待しており=リスクプレミアムが存在するわけです。これは長期で投資する場合、債券よりも株式のほうが高いリターンが得られることを示唆しています。

何を信じるか

3つの観点から長期投資の利点を見てきました。「過去のエビデンス」「モデルによる数学的説明」「投資活動の論理的な説明」は、それぞれに株式を長期投資するメリットを説明しています。また同時に、どんなリスクがあるのかも示しています

  • 過去のエビデンス:数十年にわたってマイナスリターンが続くこともある
  • モデルによる数学的説明:可能性は低下するが元本割れの可能性もある
  • 投資活動の論理的な説明:投資家のムードによって債券のリターンを下回る可能性がある

これらに共通しているのは、長期投資は必ず儲かるものではなく、儲かる可能性が高いだけということです*3。ぼくらは常に確率の中で生きていて、できるだけ高い確率の選択肢を選ぶことしかできません。確率なので、中には悪い目が出ることだってあります。でもそれは、確率の結果であって、選んだ選択肢が悪かったことを意味するわけではないのです。

 

もしこの確率の概念がしっくり来ない人は、確率を手放すのも一つの選択肢です。これは先のリスクプレミアムを諦めて、確実な投資方法である国債に投資するということです。人生においても、確実なもののリターンは小さく、確率が絡むもののリターンは大きい。投資のリスクプレミアムは、人生のリスクプレミアムでもあるのです。

 

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*1:インフレを考慮すればだいたいゼロといったところでしょうか。

*2:もちろんこれはPERの算出方法に影響されます。ピクテのチャートは過去12ヶ月益利回りですが、投資家は将来の利益を元にPERを考えます。つまり今後の利益成長を非常に強く見ていたということを意味しています。

*3:また、別の言い方をするなら国債への投資なら必ず儲かります(インフレを上回る儲かり方とは限りません)。