
「NISAガチ勢」「現金枯渇民」「オルカン・ニート」……生活費を削ってまで投資する投資ガチ勢が、批判されています。が、ちょっと待て! 敢えて言いたい。極限まで現金を持たず投資するのは、極めて合理的な行動だと。
- 「NISAガチ勢」「現金枯渇民」「オルカン・ニート」は非合理なのか
- 最短で枠を埋めるのは論理的に合理的
- 本当の争点は期待値ではなく流動性と強制売却リスク
- 生活防衛資金を過度に積む必要はない
- 若いうちほど無理して積み立てるべき
- 若いうちこそ、全力で投資しよう
「NISAガチ勢」「現金枯渇民」「オルカン・ニート」は非合理なのか
こちらのAERAの記事では、NISAガチ勢を次のように批判しています。
とはいえ、「最短5年で枠を埋めるべき」といったSNS上の偏重的なアドバイスを鵜呑みにするのは、明らかに間違いだと言えよう。ファイナンシャルプランナーでファイナンシャルリサーチ代表の深野康彦さんはこう述べる。
「投資に絶対はないのだから、全力投資は言語道断。必ず緊急用の予備資金、数年先に使うことが決まっている資金を確保したうえで取り組むべき。NISAは無期限なのだから、けっして慌てる必要はなく、まずは現預金を確保することから始めるのが賢明です」
一見、なるほど? と思いがちなこの批判。よくよく考えると、NISAガチ勢には合理性があることを説明したいと思います。
最短で枠を埋めるのは論理的に合理的
この記事はさほど長くないのに極めて矛盾に満ちています。まずこちら。はい。まさにこのとおり。これが論理的かつ統計的に分析した正しい内容です。
実は論理的かつ統計的に分析すると、長期投資では積立投資よりも一括投資のほうが高いリターンを得られる確率が高いと言われている。長期的に株式市場が右肩上がりで推移するという前提に立てば、投資に回す資金をすでに持っている場合には、一括投資のほうが資金をより長く市場で運用できるためだ。
巷で積立投資が推奨されている理由の一つは、一括投資のようにタイミングを見計らう必要がないことにある。また、自動的に投資が継続されて“ほったらかし”にできることで、暴落時の“狼狽売り”も回避しやすい。
ところが、「論理的かつ統計的に分析」したくせに、次の文章ではこう書きます。
とはいえ、「最短5年で枠を埋めるべき」といったSNS上の偏重的なアドバイスを鵜呑みにするのは、明らかに間違いだと言えよう。
おいおい! これはつまり、「論理的かつ統計的に分析」したら正しいけど、それは「明らかに間違い」なんだそうだ。ではそれはなぜかというと、全く論理的かつ統計的ではない「投資に絶対はないのだから」という格言になるのです。
本当の争点は期待値ではなく流動性と強制売却リスク
この記事の課題は、「論理的かつ統計的に分析」して正しい答えを挙げながら、その反論として古典的で感情論でしか語れないFPにコメントを求めてしまったことです。
NISAガチ勢が現金を極限まで削ってNISA枠を全力で埋めることの何が問題なのかというと、「投資に絶対はない」という話ではなく、流動性と強制売却リスクなのです。どういうことか。
生活防衛資金ゼロでフルインベストすると、暴落と失業や病気が重なったときに最悪のタイミングで売らざるを得なくなります。期待値が高くても、個人が一度の破綻で退場するゲームでは、収益率配列リスク=シーケンス・オブ・リターンリスクが発動するのです。
100万円投資していて、+30%のリターンの年と- 30%のリターンの年があったとします。お金の引き出しがない場合は、
- 100 x 1.3 x 0.7 = 91
- 100 x 0.7 x 1.3 = 91
とリターンの順番が変わっても結果は変わりません。ところが、1年経ったタイミングで10万円引き出さざるを得なくなると、結果は変わります。
- 上げてから下げ:100 → 130→ 引出10 → 120 → 84
- 下げてから上げ:100 → 70 → 引出10 → 60 → 78
6万円、6%の差がつきます。同じリターン、同じ引き出し額なのに、掛け算の順番が入れ替わるだけで結果が大きく変わるのです。つまり、生活防衛資金ゼロの投資家は、このように意図しない取り崩しが発生するリスクを孕んでいて、これが起こると期待リターンは同じでも最終結果が大きく変わるのです。
さらにやっかいなのは、この意図せぬ引き出しは暴落と正の相関があることです。景気後退期では、株価の下落と失業の増加が同時に起こります。リストラも残業代の削減もボーナスカットも取引先の倒産も、株安と同じ局面で起こる。つまり生活防衛資金ゼロの投資家は、構造的に最悪の順序のときに取り崩しが必要になる可能性が高いわけです*1。
生活防衛資金を過度に積む必要はない
単なる格言的な「投資に絶対はない」ではなく、なぜ生活防衛資金が必要なのかの理屈が分かれば、対策も見えてきます。問題は取り崩しが必要になってしまうことで、生活防衛資金を持たなくても取り崩しが発生しないなら、NISAガチ勢は極めて合理的なのです。
まず、支出の中身を分解してみましょう。それは生活費+積み立て の2つに分解できます。もし暴落と失業や病気が重なったときに、まずどうするか考えてみましょう。
失業や病気が重なっても、日本には雇用保険や傷病手当金というものがあります。そのため一定期間はある程度の収入が保証される。この額が生活費を上回っていれば、当面の問題はありません。積み立てが止まるだけです。敢えて言えば、積立額が多いほど、生活費は少なくなるので、雇用保険で暮らせる可能性が高まります。つまりNISAガチ勢ほど固定費が小さいなら、いざというときに困らないとも言えます。
また資格を持っていたり失業の危険が基本的にない公務員などでは、生活防衛資金の必要性が小さくなります。そもそも生活防衛資金というのは、病気などの突発的な支出や、再就職までの生活費をカバーするための費用なので、真面目に計算すればそんなに大きくないのです。
若いうちほど無理して積み立てるべき
さてここまで見てくると、もう一つの矛盾も見えてきます。
「若いうちは積立投資を中心に、毎月無理のない範囲で続けていくことを心掛けたい。
これはまさに逆で、投資理論でいえば、資産の増加は期待リターンと運用期間の掛け算なので、少しでも運用期間を長くするなら、若いうちからのほうが効きます。そして若いうちは、家のローンや教育費などの固定費が小さく、生活防衛資金の必要量が小さい。本当に生活防衛資金を用意したほうがいいのは、家庭を持ったあとのことです。
そして、何の理論的な裏付けもない次の発言が、一見保守的に見えて実はあまりに非合理的なことにも注意が必要です。
家計に余裕があれば、成長投資枠で個別株投資を行うのも一手です。銘柄を選べないなら、日経平均株価などの代表的な株価指数連動のETF(上場投資信託)を選ぶのもいいでしょう」
ここまでずっと「積立投資は危険」と言っておきながら、なぜかここで個別株投資を勧めてきます。よくいるFPアルアルです。資産運用の面白いところは、金額が変わったからといって最適な運用方法が変化しないところにあります。月々3万円の積立でも、年初一括360万円のNISAでも、そして1億円の運用でも、最適な手法は変わらないのです。資金があれば、オルカンよりも個別株のほうがよくなるなんてことは一切ありません。
若いうちこそ、全力で投資しよう
まとめると、
- 「論理的かつ統計的に分析」すると一括投資のほうが高いリターンを得られる確率が高い
- 生活防衛資金ゼロでフルインベストすると強制売却リスクがある
- ただし若くて積立額が大きいほど、強制売却リスクは低い
- そして若いほど、投資による資産増加の期待値は大きい
- 「論理的かつ統計的に」資産を増やしたいなら個別株は不要
- つまり、安心してNISAガチ勢しよう
ということです。NISAガチ勢、いいじゃないですか。なお、「投資するより、日々の生活にもっとお金を使ったほうが人生が豊かになるはずだ」という意見は一定の説得力があります。ただこれはその人の生き方の話で、何が正解かという話ではありません。
ちなみにぼくは借入金を差し引くと手持ち現金はマイナスです。生活防衛資金? 足りなくなったらもっと借りればいいじゃないですか。てへ。
*1:ちなみに、FIREしたなど取り崩し期に入ると、このシーケンス・リターンリスクが牙をむきます。本来はFIRE済みの人が気にするべきリスクです。