今回は医療保険について考えてみます。医療保険については、いろいろな考え方があるようで、賛否両論。ここで一つの考え方を披露してみたいと思います。
医療保険とは?
医療保険とは、簡単にいえば病気や怪我にあった際にお金がもらえるというものです。いろいろとオプションがあって複雑になっていますが、基本的には「入院すると1日ごとに5000円、または1万円」が給付される保険です。
上記はアフラックのサイトからの画像ですが、これに対して、下記のような追加の保障がついています。
- 入院が10日未満でも10日分出る
- 手術をすると5〜20万円出る
- 放射線治療だと入院しなくても1回5000円
- 3年毎に健康だと2.5万円
ちなみに、保障期間は終身で、支払い限度額は60日。マックス入院すると30万円の給付があることになります。もちろん、「1万円」プランにすれば掛け金も倍ですが、マックス60万円ですね。
ちなみにアフラックのサイトで入院5000円プランの月額の保険料をシミュレーションしてみると、次のようになりました。70歳とか80歳とかでも入れるのが逆に恐怖なのですが、月額掛け金は2万円超とすごいことになります。
入院時に実際にかかる費用
では入院時にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか? 住友生命のWebによると平均で1万4738円、平均入院日数は29日だとなっています。内訳は次の通りです。
- 医療費自己負担額 5670円
- 食事代 1380円
- 差額ベッド代全国平均 6188円
- 家族の交通費など 1500円
もちろんこれは平均なので、傷病によって変わってきます。傷病別の数字はこちらです。
では累計でどれだけかかるでしょうか。平均数値だと1万4738 x 29で、42万7402円。傷病別の骨折だと50万0055円、脳卒中だと101万1972円という感じです。
別のデータ公益財団法人生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」から、直近の入院時の自己負担額です。こちらを見ても、100万円を超える費用はほぼかからず、過半が20万円以内に収まっていることが分かります。
別の見方をすると?
さてこのブログでは何度か、「滅多に起きないが、起きると破滅的な出来事に対応するのが保険」だと書いてきました。例えば、自動車保険や子供が小さいうちの生命保険などですね。
では医療保険はどうでしょうか。まずは滅多に起きないのかを、入院率から見ていきいます。下記は「厚生労働省「患者調査」/平成29年」のデータを元に、生命保険文化センターが集計したものをグラフ化したものです。
これを見ると、入院率は70歳くらいから急上昇しており、85歳を超えると年間に5%程度が何らか入院していることが分かります。当然ですが、高年齢の人にとっては入院は「滅多に起きない」ものではなく「ありふれている」ものなのです。
若い層ではどうでしょう。0歳は別として、60歳までの入院率は1%を切っています。50歳までは0.5%を切っており、これはかなり「滅多に起きない」出来事だということが分かります。
滅多に起きないのに、起きたら壊滅的ならば保険の出番です。でも、先の入院に関してかかる費用を見返してみると、平均値で42万7402円、最も高くつく脳卒中でも101万1972円でしかありません。この100万円程度の支出は壊滅的でしょうか?
貯金せずに保険で対応する?
実は日本人の医療保険の加入状況はすごいものがあります。公益財団法人生命保険文化センターのデータによると、医療保障に対する私的準備状況は下記のようになっています。
7割近くが、生命保険や医療保険を使って、医療保障の用意をしているということですね。預貯金で対応している人は42%にすぎません。
では最高でも100万円程度の費用を貯蓄で賄えないのかかというと、そうでもありません。100万円が大きいか小さいかは人によって違うと思いますが、少なくともほとんどの家庭がこれを超える貯蓄を持っています。下記は総務省統計局の年齢階級別貯蓄額です。つまり、マックス60万円程度しかもらえない医療保険に入らなくても、十分に貯金で対応できる状態の人が平均的にみると多いということです。
貯金で十分に対応できるのであれば、それを保険で賄うことに合理性はありません。もちろん、総資産が100万円程度しかなく、入院してしまったら貯金ゼロになってしまうような場合はまた別ですね。総資産のすべてを失うような自体は十分に「壊滅的」だともいえるからです。
保険料を貯金に回すと?
ちなみに、保険料を支払うのではなく、その額を貯蓄に回すとどうなるかを見てみましょう。まずは年間の保険料支払い額から。60歳以上になると保険料も跳ね上がり、差異がわかりにくくなるので、60歳まででまとめてみました。20代、30代は年間5万円以内に収まっていますが、40歳を超えると支払い額が急カーブになるのが分かります。
終身医療保険の場合、いったん加入したらその保険料は一生上がりません。では、このペースで保険料を支払った場合、想定されるマックス入院費である100万円に到達するのに何年かかるか計算してみます。20歳男性は30年間払い続けると、ちょうど100万円になりますね。40歳女性は18.8年で100万円になります。
今度は、この5歳刻みで保険に加入したとき、総支払額が100万円に達するのが何歳なのか計算です。だいたい50歳から70歳の間に入ることが分かります。つまり、何歳で保険に入っても、50〜70歳には、合計で100万円を支払うことになるということです。
逆にいえば、医療保険に入る代わりに掛け金同額を貯蓄していった場合、何歳から貯金を始めても50歳〜70歳までには100万円が貯まるということです。
50歳/70歳までに一度でも入院する可能性はどのくらいでしょうか? 各年代の確率を単純に足し合わせても、50歳までで8.4%、70歳までだと24%になります。別の計算で、次のような試算もありました。20代の人が50歳までに1回以上入院する確率です。
- 20歳 50歳までに入院する確率 46.3%
- 20歳 70歳までに入院する確率 77.24%
- 30歳 50歳までに入院する確率 37.55%
- 30歳 70歳までに入院する確率 73.51%
- 40歳 50歳までに入院する確率 22.56%
- 40歳 70歳までに入院する確率 67.16%
- 50歳 70歳までに入院する確率 57.59%
- 60歳 70歳までに入院する確率 39.32%
先のグラフで示したように、20歳の人は50歳までの保険金支払い総額が100万円でした。そしてその間に入院する確率が36.3%です。60歳の人は70歳までの保険金支払い総額が100万円、その間に入院する確率は39.32%です。
このように確率で見た場合、支払う額は、実際に入院になってもらえる額の期待値を大幅に上回ります。まぁそれは当たり前です。この差分が保険会社や保険代理人(保険営業パーソン)の利益になっているのですから。
意外?な矛盾
このように、「滅多に起こらないけど、起きたら壊滅的なものに対応するのが保険」という基本に戻って考えると、医療保険は「若いうちは滅多に起こらないけど、長期間で見るとかなり高確率で発生する」ものです。さらに、起きたら壊滅的かというと、十分に貯蓄でまかなえる額です。
100万円の貯蓄が用意できない、またこれを失ったら壊滅的だという人は、医療保険を検討する意味はあると思います。しかし十分に支出可能な資産がある場合は、医療保険は「心の安寧」の役割は果たしても、本来の保険の意味を果たしているかは疑問です。
ちなみに「医療保険をケチってインデックス投資をするなんて……」という話をたまに聞きますが、300万円程度の貯金があれば、残りはインデックス投資などに回すほうが合理的じゃないかというのが、ぼくの考え方です。
日本は国が傾くくらい、豪華な公的医療保険と公的年金が整備されている国です。300万円程度の貯蓄があれば、どんな病気でもカバーできてしまうという、世界でも珍しい国です。それなのに過剰にリスクを恐れ、「何が起きても保険でカバー」を目指す人が多いのは不思議なものです。