3月19日に、日銀が金融政策決定会合で買い入れるETFの対象を、日経平均を廃して完全にTOPIXに切り替えることを明らかにしました。結果、日経平均への寄与度が最も大きいファーストリテイリングの株価は5910円と大幅安となりました。
日銀砲でファストリ6%下落
日銀が日経平均ETFからTOPIXETFに切り替えるということは、間接的にファストリ株の購入が減るということです。これを嫌って、19日のファストリは6%も急落しました。
日経平均にとって最重要なファストリ
業績の好調さもありますが、日銀の日経平均ETF買い入れはファストリの株価を押し上げてきました。この1年間でファストリの株価は2.2倍に上昇。これは日経平均が1.7倍になったのと連動しています。
というのも、基本的に日経平均は225銘柄の単純平均だからです。りそなHDのような株価500円の銘柄は日経平均の構成比が0.01%なのに対して、株価が9万1000円もあるファストリは構成比が11%に達しています。
ファストリとソフトバンクGが上がるかどうかで日経平均が決まるともいえますし、日経平均ETFを買うということは、ファストリソフトバンクGを買うということでもあるわけです。
日銀は日経平均ETFを買い続けてきましたが、それによりそもそも浮動株の少ないファストリは、そのほとんどを日銀が間接的に保有している状態になっていました。日銀のETF保有残高は約48兆円で、東証一部時価総額の7%程度ですが、ことファストリについて、浮動株の63.9%を日銀が保有。実質的にファストリの浮動株比率は9%まで減少していたのです。
日経平均に大きな影響を及ぼす銘柄なのに、流動性が極めて低くなっており、そのために株価が乱高下する原因にもなっていました。
日銀が生み出した市場の歪み
日経平均が構造上持っている歪みと、日銀がそれを買い入れることで歪みが増幅することは最近になって指摘されたことではありません。ニールセンリサーチの2017年のレポートには、「日銀の購入割合が浮動株ベース時価総額の10%に相当する企業はPERが業種の標準的水準より約7ポイント高い傾向があり、株価を歪めていたことが分かる」としています。
とはいえ、日銀は日経平均ETFばかりを買っていたわけではありません。原則年間6兆円、上限12兆円というルールのもと、その多くはTOPIXを買い入れていました。19日の会合で、「年6兆円」という目安は削除、そしてETFの買い入れ対象をTOPIXのみとしたわけです。
※日銀のETF買い入れについて | ETFとは | NEXT FUNDS
膨れ上がった日銀保有株
日銀が買い入れた株式は、基本的に売られることはありません。買付額は菅政権発足から徐々に減ってきてはいるものの、累計の保有額は49兆円にも及んでいます。
※いつまで日銀はETF買入を続けるのか?批判の声も…政策点検後を予想 【連載】井出真吾の「株式市場を読み解く」|FinTech Journal
これはGPIFが保有する国内株式45兆2732億円(2020年12月末時点)を抜いて、国内で最も多くの株式を保有する機関となっています。しかも、定期的にリバランスを行い、膨らみすぎたアセットを売却するGPIFとは違い、ひたすら買い続けるのが日銀です。
東証一部の時価総額は2月3日時点で701兆円。そのうち7%を日銀が保有しているという、ざっくりとした計算です。
現在は13兆円もの含み益があるものの、購入した株式をどうするのかの出口戦略の議論も出始めました。何しろ、「日銀が売り、市場に放出」となったら、株価が暴落するのは目に見えています。議論の中では、日銀から個人に直接譲渡する案もあるようです。
個人の購入希望者を募って、日銀が保有するETFを譲渡するという案で、「一定期間、相応のインセンティブ付与を前提に売却制限を付して譲渡する」ことなどが考えられている。
官製相場
すでに日本株の取引は、「日銀がいつ買うか」「どれだけ買うか」に左右されているという雰囲気をヒシヒシを感じます。下落すれば「日銀が買い支える」という期待を持って、みんな投資している感じです。
PERを見ると、特にこの半年間の株価上昇は企業業績の改善によるものだということは分かります。
しかし、長期で見ると、日経平均PERは15倍程度が通常の水準で、特に低金利が進んだわけでもない直近で23倍となっているのは、ちょっと割高感もあります。
なにより、こうした日銀によるETF買い入れのような官製相場というのは、合理的に動くはずの市場を歪めているのは事実だと思います。ぼくは長期投資を中心に考えているので、長期的に伸びると思えない国内株式についてはそもそも関心がないのですが、それ以外にも、合理的に株価が決まらず、国の意向によって上がったり下がったりする市場には不信感しかありません。