ぼくは法人を2社持っているのですが、そのうちの1社(A社と呼びます)の3期目の決算が先日完了しました。このA社の財務諸表について、2021年3月期の状況を確認しておこうと思います。
大きな赤字のPL
損益計算書(PL)を見てみます。売上高と営業利益、経常利益、そして当期純利益を時系列で見てみましょう。2021年3月期までが実績、2022年は予測値です。
売上はほぼすべて太陽光発電なので、発電所の稼働状況に依存します。一つも稼働していなかった19年は売上ゼロ、20年は最終月に稼働を始めたのでちょっとだけ売上があります。4基が稼働してそれなりに売上が立ってきたのは、今回の21年3月期が初めてです。
しかし、利益はひたすら赤字で、21年は少し赤字幅が拡大しました。それはなぜでしょうか? 売上が上がるのとセットで太陽光発電設備の減価償却費が乗ってきて、差し引きの利益はほぼゼロ。その上で、土地などの取得に登記費用などがかかったのがその理由です。
太陽光発電は、1基あたり年間でだいたい200万円くらいの売上がたちますが、一方で定率の減価償却費が初年度160万円程度発生します。ここに融資に対する金利などを入れると利益はほぼ発生しません。
4基がフル稼働する22年3月期も状況は似たようなものです。売上高は飛躍的に高まりますが、同時に減価償却費も金利負担も増加するため、ほぼ利益は生まれません。そして家計と按分している家賃光熱費通信費などが発生するため、その固定費の分は赤字になってしまうわけです。
赤字だから儲かっていないわけではない
おそらく黒字化するのは2023年3月期になるでしょう。しかし、損益計算書(PL)が赤字だからといって儲かっていないかといえば、そんなことはありません。これは何を「儲け」と考えるかの問題です。
費用の多くを太陽光発電システムの減価償却費が占めているわけですが、これは帳簿上のマイナスとなっているだけで、実際にお金を支払っているわけではないからです。そのため、帳簿上の利益はマイナスなのに、現金はたくさん入ってきているということが起こります。
一方で逆の項目もあります。借り入れた融資の元本返済部分です。融資の返済は、金利部分と元本部分に分かれますが、金利は実際に支払うと同時に損益計算書上でも費用として計上します。ところが、元本返済部分は実際に現金は支払うのに費用にはならないのです。
まとめると、現金の出入りに対して、減価償却費と元本返済は次のような影響を及ぼします。
- 減価償却費 PL上の利益押し下げ
- 元本返済 PL上の利益押し上げ
実際によくある太陽光発電所のPLの中で、減価償却費と元本返済がどうなるか見てみましょう。最初の6年間は減価償却費が高く、元本の返済比率が低いため、差額が大きくなります。PL上は利益を大きく押し下げる効果があるわけです。
7年目からはこれが逆転し、実際のキャッシュの動きよりも利益が大きく出るようになってきます。15年目に向けて、どんどん利益額が拡大していってしまいます。ローンの返済が終わる16年目と17年目は、償却費だけが発生するので再び利益は押し下げられます。こんな動きになるわけです。
ちなみにこの法人Aでも、損益計算書は赤字ですが、CFはちゃんとプラスになっており、しっかり現金を稼いでいてくれます。
PLが重要なわけ
投資家にとって、本当に重要なのは現金の増減であり、損益計算書はそれほど重要なものではありません。ただし、2つのことに大きく影響するため、利益がどうなのかはしっかりとチェックしておかなくてはなりません。
1つは金融機関です。金融機関は、融資先の財務諸表が黒字か赤字かは気にします。太陽光の売上コストの出方を理解していても、それでも外形的に利益は気にするのです。先日不動産の融資をひいたときも、「決算書が赤字だと本部の審査を通らないです」とはっきり言われ、いろいろとややこしいことになりました。
2つ目は税金です。財務諸表を作る理由は大きく3つあって、それぞれ目的が異なり、数値も微妙に違ってきます。
- 事業の実態を把握するため(投資家や金融機関が利用
- 支払う税額を計算するため(税務会計
- 事業の実態を把握するため(管理会計。内部的に利用
大きな企業だと(3)の管理会計も重要になってくるのですが、未上場企業のプライベートカンパニーにおいてはやはり(2)の税務会計が最重要です。この損益計算書の利益額に応じて支払う税額が決まるからです。
黒字なら法人税の支払いが発生しますし、赤字なら支払いなし。さらに赤字分を翌期に繰り越して翌期の黒字と相殺できます。そのため、赤字か黒字かは税金という観点だとものすごく重要なわけです。
減価償却費のコントロール
よく「損益計算書は操作できる」と言われますが、グレーな意味でも真っ白な意味でもそれは事実です。キャッシュの出入りに関係なく損益に影響を与えるものとして減価償却費がありますが、実はこれは簡単に操作できます。
減価償却は、購入した設備を複数年に渡って経費処理していくことを指しますが、実は定率法と定額法の二種類があって、選ぶことができます。定率法は上記のグラフのように残存簿価の一定率を毎年償却費として減らしていく方法。定額法は毎年同じ額を償却費としていく方法です。
残存簿価は最初のほうが多いので、定率法を使うと最初に大きな償却費を計上できます。つまり赤字にしやすいわけです。赤字にすれば、支払う税金が減ります。正確には先送りできるわけですが、IRRの観点では払うものはできるだけ先延ばしした方がリターンが向上します。
一方で赤字にすると金融機関からの融資が引きにくくなります。そのため、あえて定率法を使わずに定額法を使うことで、早期に決算書を黒字化するという人もいます。ぼくの場合は、一気に借入を行ってしまうという方法を採ったので、税金上有利な定率法を選択しましたが、ここは考え方というやつですね。
17年償却の定率法
ちなみに定率法というのは、何年で償却するかで率が変わります。設備の種類によって償却年数は決まっていて、例えば次のようになっています。
- 金属製の机 15年
- テレビ 5年
- パソコン 4年
- 自動車 6年
- 自転車 2年
そして、年数によって償却率が変わります。この「定率法の償却率」というのがそれです。2年については後述するとして、3年のところを見ると0.667とあります。これは毎年66.7%を減価償却費として計上できますよ、という意味です。
100万円のものを3年で、定率法で償却するときの償却費を見てみましょう。グラフは減価償却(H24年度~) - 高精度計算サイトからです。
1年目の簿価100万円に対して、66万7000円を償却(償却限度額)して、その分簿価が減少。2年目はさらにその66.7%を償却していっていることが分かります。
ではもっと長い期間になるとどうなるでしょうか。太陽光設備は17年償却で、償却率は11.8%。つまり毎年簿価の11.8%を減価償却費にできるわけですが……。このように、10年目からはずっと一定の償却額になります。
これはなぜか。実は簿価の11.8%の償却を続けていくと、永遠に償却が完了しないことが分かります。これではまずいので、どこかでガンガン償却をして17年でゼロ(正確には備忘価格の1円)にしなくてはいけません。そのために、「保証率」というのが定められています。
再度償却率の表を見ると、耐用年数17年の保証率は0.04038となっています。100万円の資産の場合、これを掛けると4万380円。毎年の償却額がこれを下回った段階で、計算方法を変えることになっているわけです。
耐用年数17年の場合、単純に11.8%を償却額としていくと10年目には償却額が4万380円を下回ります。つまりここで計算を変えて、今度は「改定償却率」を使います。17年のところを見ると0.125となっています。残存簿価の12.5%を、その後は定額で償却費に回すという計算をします。12.5%ずつ減らすとちょうど8年でゼロになりますね。こうやって、定率法であっても最後の8年は定額で簿価が減少していくというわけです。
耐用年数が短かったり金額が小さかったり
ちなみに、耐用年数2年の償却率が1.000になっていることにあれ?と思いましたか?償却率が100%ということは、100万円のものを年間100万円償却費として処理できるということです。これはつまり耐用年数2年なのに、1年で全部償却してしまうことになりますね。なんでだろう?と思ったのですが、ちょっと調べると、まぁそういうものだということです。不思議なものです。
また机やテレビ、パソコンなどについて耐用年数が定められていますが、そもそも10万円未満のモノは固定資産扱いされないので、消耗品として1年で全額償却が可能です。また、10万円以上でもいろいろと特例があって、特に中小企業の場合は意外と早期に償却できます。
※一括償却資産とは|減価償却資産&少額資産償却制度との違い|税理士検索freee
また、減価償却を行う資産には「償却資産税」という税金がかかることにも注意です。太陽光発電所だと、けっこうこれが痛いんですよね。固定資産税の一種で、簿価の1.4%(場所によっては1.5%のようです)を毎年支払うことになります。
1500万円の太陽光発電所設備なら、21万円にもなるので激しくイタい税金です。ちなみに、先端設備導入計画という税制優遇は、この償却資産税を当初3年間ゼロになるという制度だったりします。
いやはや、売上と費用だけならPLもシンプルなのですが、固定資産が絡むと減価償却が発生して、とてつもなくややこしくなりますね。事業計画を立てるにあたって、一応シミュレーションできるように減価償却や償却資産税を織り込んだシートを作ってIRRやDCFなどを行っていますが、実際の税務処理はやっぱり税理士に任せるのが楽ちんです。