世の中にはいろいろな節税術の情報が溢れていますが、そのほとんどは具体的な手法ばかりで、税金対策のグランドデザインというのはあまり見ることがありません。税理士さんにしても、「一般的にはこういうやり方がいいですよ」「あなたの場合はこちらがオススメです」という感じで、そもそも節税って何をするものなのか? を話すことはあまりありません。
個人の確定申告を何年もやってきて、さらに法人も2社経営している中で、いろいろ調べた結果、なるほど税金とか節税はこう考えればいいのか! ということが自分の中で腹落ちしてきました。そこで、今回は税金の最適化についてグランドデザインを考えてみます。
税金のかかり方の基本
まず税金のかかり方の基本は「所得」に対してかかるということです。所得というのは「収入」から「経費」を引いたものです。法人でいえば「売り上げ」から「損金(≒費用・経費)」を引いた残りが「所得」です。
つまり実際に儲かった額、手取りに対してかかる。これが基本です。個人なら「所得税」なんていうので、所得にかかる税金だということが分かります。法人税も所得にかかります。
そうすると、この税金を減らすにはどうしたらいいかというと、所得を減らせばいいわけです。しかし、そのために売り上げを減らすとか、費用を増やしては本末転倒です。また売り上げを小さく見せたり、費用を大きく見せるのは、脱税といいます。
ではどうしたらいいか。その方法は大きく3つあります。
世の中の節税の3つの要素
まず「控除」です。控除というのは「引く」という意味の日本語ですが、通常税務関係以外ではあんまり使いませんね。
どういうことかというと、税金の計算において、所得から引くことができたり(所得控除)、税額から引けたり(税額控除)する制度がいろいろと用意されています。代表例は、基礎控除、扶養控除、配偶者控除。それから給与所得控除とか青色申告特別控除なんてのもありますね。いずれも、所得から引くことができて、結果として税金が少なるなるものです。
2つ目が「繰り延べ」です。税金を支払うのを将来に繰り延べるというものです。
世にある節税テクニックの多くがこれにあたります。どういうものかというと、何かに費用をかけて買うので所得が減ります。ところが、数年後とか10年後とか、後になって掛けた額が戻ってくるというものです。最初は所得が減るので税金も減りますが、後になって戻ってくるのでその時にその分税金を払うことになります。
3つ目は「平準化」です。これは個人の所得税が累進課税であることに起因します。所得が小さいと税率が小さいのですが、所得が増えると税率も上がります。そこで、時間軸あるいは人数軸で所得をできるだけ均してあげれば、全体の税金は少なくなるはずです。
この「控除」「繰り延べ」「平準化」をうまく使って税額を少なくするのが節税の取り組みです。それぞれを見ていきましょう。
「控除」の活用法
まず「控除」は知っているかどうかが重要です。ほとんどの控除は自ら申告した場合だけ利用でき、知らなければ使えないからです。
投資家にとっては例えば次のような控除が、「知っている人なら」利用できます。
- 外国税額控除
- 配当控除
- 寄付金控除(ふるさと納税含む)
- 医療費控除
- 住宅ローン控除
いずれもこれらの控除を使うには確定申告が必要です*1。しかしこれらの控除はとにかく申請すれば所得や税額が減るので、確実にお得。知っている人だけがこれを活用できます。
また人間の頭数ごとに用意されている控除もあります。これらの活用は意外と知られていません。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 給与所得控除
- 青色申告特別控除
例えば「基礎控除」は誰もが所得から控除できる基本的な控除です。「誰も」というとおり、生まれたばかりの赤ん坊でも48万円の控除があります。つまり子供に譲渡した資金を親権者が代わりに取引して利益が出た場合、この所得から基礎控除分を引けるということです(扶養を外れないように子供の確定申告 2021年確定申告戦記(4) - FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記)。
「給与所得控除」は給与をもらっている人が利用できる控除です。サラリーマンにとっての概算経費みたいなもので、金額は最低55万円。給与所得が増えると控除額も増えます(最大195万円)。これの使い道は、例えばFIRE後退職した人も、自分で法人を作って給与を受け取れば、給与所得控除分の控除が受けられる点にあります。
さらに「青色申告特別控除」は、開業届を出した個人が最大65万円を所得控除できます。これは給与所得者の副業でもOK。つまり、自分の法人から給与を受け取って給与所得控除を使いながら、個人事業として青色申告特別控除も使えば、ダブルで所得から控除が受けられるわけです。
もっとロングスパンで考えておかなくてはいけない控除には、退職金控除や公的年金等控除があります。これは「繰り延べ」の項目との組み合わせで活用します。
「繰り延べ」の活用法
今年税金を払うのと来年税金を払うのでは、来年払うほうがお得です。いわゆる期限の利益というやつで、支払いを後ろ倒しにできればその間、資金を有効活用できるからです。
繰り延べの方法は昔からいろいろと研究されていて、例えば投資家であれば、年末の「損出し」が有名です。損失の出ている銘柄を売却し、損失を確定させることで、その年の利益を減らします。その銘柄を同値で買い戻せば、実質的に税払いを翌年以降に繰り延べたことになります。
個人の不動産購入も税の繰り延べの一手法です。不動産は購入時に多額の経費(売買手数料)がかかり赤字になることがほとんどです。この赤字は個人の所得と通算できるため、所得を圧縮できます。ただし、翌年以降は不動産所得がプラスされるので税額は増加します。つまり所得を翌年以降に繰り延べた形です。
NISAと並んで節税口座として有名なiDeCoも、投資額は所得控除(小規模企業共済等掛金控除)となりますが、最終的に60歳以降に資金を受け取るときには課税されるので、実質的には税の繰り延べです。
法人ならば、次のような方法が有名です。
- 小規模企業共済
- 経営セーフティ共済
- 各種生命保険
こうした仕組みは、繰り延べた所得は最終的に一括で受け取るわけですが、このときに退職を行い「退職金控除」と当てるのがポピュラーです。これにより、期限の利益とともに控除をうまく活用できるわけです。
平準化の活用法
個人が税金を繰り延べる意味は期限の利益だけではありません。所得税は累進課税だからです。そのため、所得が大きいときから所得が小さい時期に繰り延べると、結果的に税額を減らすことができます。
次のように所得金額が毎年増減していたとき、税率も変動します。この所得は平均すると年間1240万円で、そのときの税率は33%になります。延支払い税額を計算すると、
- 変動時 3252万円
- 平準化時 2556万円
と700万円も税額が変わります。所得を繰り延べるとともに、一定に保つことで税額を減らせるわけです。
この平準化は時間だけでなく、人数軸でも働きます。
- 年収1500万円男+専業主婦
よりも
- 年収750万円 共働き
のほうが手取りが多くなることはよく知られています。つまり、いろいろな控除がある存在ごとに、できるだけ所得を平準化できれば、税額が減らせるわけです。具体的には、売り上げを立てるときに、個人、法人、家族などで分散できるところは分散させて平準化を図るわけです。
節税テクニック
節税テクニックというと、「法人化すればこんなものも経費にできます」とか「中古車を買えば減価償却で節税できます」「簡易課税を使えば消費税支払いが減ります」とか、間違ってはいないけど、個別具体的なテクニック論が多いように感じていました。
でもそのグランドデザインとしては、ここに挙げたように、さまざまな控除を活用し、所得の繰り延べを行うことで、所得を平準化して税払いを減らすというものでしょう。そしてこれは単体のテクニックというよりも、どこにどんな所得を付けて、いつどのような税金を払うかをプランニングするという、大きな絵を描かなければいけないものだと思うわけです。
*1:ふるさと納税のワンストップ申請みたいな例外もあるけど