FIRE後に頭を悩ますのが社会保険の問題です。普通に会社を退職して無職になると、国民年金+国民健康保険という組み合わせになるのですが、これは扶養が取れないとかいくつかの課題があります。ならばとベストプラクティスの一つなのがマイクロ法人を作る方法。でも、マイクロ法人の「事業内容」はどうしたらいいのでしょうか?
読者の方からのご質問
先日、下記のようなご質問を読者の方からいただきました。アーリーリタイア間近まで来ており、マイクロ法人の設立を検討されているとのこと。ただ、その事業内容をどうするか、悩まれているようです。
お世話になっています。
九条さんのブログを陰ながら楽しく拝見させて頂いております。
また、九条さんのブログで私の人生を変えるきっかけを下さり本当にありがとうございました。2020年のビットコイン記事のおかげで、現在ビットコイン暴騰によりアーリーリタイアが目の前に来ております。それに際して既にFIREされている九条さんに何点か質問させてください。
もしお時間あり、答えられる範囲のものでしたらブログのネタにでもしていただけると嬉しく思います。
【質問内容】
■FIREした人たちの多くが「マイクロ法人/青色申告」を採用している人ように見えます。ですが、マイクロ法人を作を作る際の肝心の「事業内容」についてが全く思い浮かびません。FIREした人たちはどうやってそうポンポン事業内容を決めてマイクロ法人や法人口座を作っているのでしょうか。
九条さんの場合は太陽発電や賃貸等で法人を複数作っていると認識していますが、私は本当に何もないサラリーマンをしているだけの人物で特技も無く仕事もやる気がない、太陽光もやっていなければ不動産も皆無でやる気もありません。ビットコインだけ個人口座で持ってるだけです。
そんな人物がマイクロ法人だけ作って節税みたいなノリでできるのでしょうか。
※ちなみに一応副業と言えなくもないのが、ブログをやっていて、広告報酬で1日5円~10円ぐらい収入がありますが、流石にこれを事業とするのは無理ですよね・・・
マイクロ法人を使った社会保障
マイクロ法人を作り、そこから最低限の給与を自分に支払うことで、厚生年金+協会けんぽに入ることができます。これは大企業の組合健保に近く子どもなどを扶養にいれることもできます。特徴は、厚生年金+協会けんぽの保険料は、純粋に給与の額で決まること。つまり金額をコントロールできるわけです。
ただマイクロ法人をお持ちでないなら、新たに作る必要があり、ちょっとハードルがありますよね。作る際の流れは、下記のページの古いほうにまとめていますが、簡単に言えば法務局で法人を登記して、法人銀行口座を作り、社会保険事務所に行って申し込みをすればOKです。
問題は法人を作るときの「事業内容」でしょう。ぼくの場合は太陽光発電事業を行うために法人を持っていたので悩むことはありませんでしたが、何の事業もやっていないのに法人を作るのは悩むと思います。
マイクロ法人の事業内容
といっても、実はそんなに悩むことはありません。マイクロ法人を社会保険や節税のための箱だと捉えるなら、社長がなにもしないですむ事業を行えばいいだけです。次のような事業がありえます。
- フリーランス(コンサルタント、エンジニア、デザイナー、ライター、プログラマー、コーチング、動画編集など)
- アフィリエイター、ブロガー
- YouTuber、TikToker、InstagrammerなどのSNS運営、オンラインサロン運営
- ネット販売(アフィリエイト、せどり、転売、ドロップシッピング、D2C、ECサイト運営など)
- 不動産、資産管理、投資(株式、FX、仮想通貨、NFT)
- 太陽光発電
- フードデリバリー
- ナレーター、アナウンサー、通訳
みんなマジメに考えてしまいがちですが、別に売上が5円、10円でも何の問題もありません。それこそ売上はゼロで、経費ばかりが出ていっている会社だって問題ありません。実際、太陽光発電の契約を済ませてから実際に稼働するまでの3年間くらいは、ぼくの会社はそういう状態でした。
少なくとも、オフィスなどの固定費が不要で、業務のために機械や設備を買う必要がある事業は避けるべきです(本気でそれをやるなら別です)。フリーランス系やブロガー、Youtuberなどは、何らコストがかからず、名乗ることも簡単なので、一つオススメ。そして不動産や太陽光発電は、ぼくがそうであるように定番です。
意外なところでは、株式投資を行う法人というのも簡単です。これは法人名義で証券口座を開き、そこで株式を購入するというもの。配当が入ってくる銘柄なら、それが法人としての売上になり、そこから給与を払えばいいですね。
長期保有する株式については、配当の益金不算入という制度があり、税金が安くなります。これも法人で株式を保有するメリットかもしれません。ただキャピタルゲインについては、個人は20.315%の源泉分離課税ですが、法人の場合は約25%の法人税になるので、しっかり経費を積まなければ損をします。
決算を自分でやるならフリーランス系が容易
ただ株式の税制は少々複雑で、かつ配当など出入りもあるため、会社の決算は税理士に依頼したいところ。顧問料+決算代金で年間20〜30万円くらいの費用がかかるのではないかと思います。
もし自分で決算をやるのなら、フリーランス系がオススメです。まず在庫もなく機械や有価証券など資産計上されるものがないのでBSがほぼクリアで簡単。コストも(外注でもしない限り)原価がなく全部販管費です。
売上についても進行基準などもなく、基本、業務完了から90日以内には入金されます。売上があって販管費としての費用があるだけで、ほぼお小遣い帳のようなもの。これなら法人決算もある程度容易だと思います。ぼく自身は税理士に依頼しているので、これはあくまで想像ですけど。
売上より給与が高くてもいいのか
売上ゼロの法人とか、株式配当だけが収入とか、そう書くと、そんな会社が給与を払えるのか? と気になるかもしれません。仮に給与が月7万円だとすると、労使折半の社会保険を併せて年間約100万円を会社が支払わなければなりません。それより収入が少なかったらどうなるのでしょうか?
これは単に会社の決算が赤字になるだけ。赤字なので税金を払う必要もありませんし*1、帳簿上マイナスが貯まっていくだけです。そのうち出資金もなくなり口座も空になるでしょうが、そうしたら社長が法人に貸し付けてげればいいだけです。
法人はいくら赤字になっても潰れることはありませんし、それをもって税務署やどこかの役所から文句を言われることもありません。会社が潰れるのは、支払わなければならないカネを払えなかったときで、給与は自分から自分に出しているだけなので払えないことはあり得ないのです。
銀行から融資をひくわけでもなければ、別に財務状況がどうであっても誰も気にしないわけで、マイクロ法人というより、ザ・ペーパーカンパニーという感じでいいのではないでしょうか。
マイクロ法人にこだわる必要はない
ちなみに、運用商品が特定口座の株式だけなら、実はマイクロ法人にこだわる必要はあまりありません。国民健康保険+国民年金は前年収入で保険料が決まりますが、特定口座の源泉分離課税は収入にカウントされないからです。
なんなら収入がゼロという扱いになり、住民税非課税世帯になったり、国民健康保険のの軽減措置の対象にもなったりするので、実はマイクロ法人を作るよりよっぽどチートです。昨今は住民税非課税世帯へのバラマキが盛んですが、株式でFIREした人でも給付金を受け取れてしまうわけです。
そのため、マイクロ法人はすでに何かの事業を持っている人か、FIRE後も何か軽く仕事はしたいなと思う人に向いているスキームだと思います。
*1:年7万の均等割だけは払いますけど。