最近、FIRE≒セミリタイアを目指して投資する人が本当に増えてきたように感じています。では、実際にFIREに至るまでにはどんな段階があるのでしょうか。それぞれのタイミングで、何を目標にしていったらいいのでしょうか。
- ブレイクダウンして目標を細分化する
- STEP1:家計の黒字化
- STEP2:ターゲット貯蓄率を超える
- STEP3:年間リターンと配当金が、年間投資額を超える
- STEP4:年間リターン+配当金が、生活費を超える
- アフターFIRE:資産取り崩し期の考え方
ブレイクダウンして目標を細分化する
どんなビジネス書にも書かれていることの一つに、目標を達成したいなら、それが実現した状態をイメージすること、そして実現までのステップを分解して、ゴールを設定し、ひとつひとつの段階をクリアしてくこと、というものがあります。
夢は夢だけにしていては夢で終わります。それに向けた具体的なアクションを取るには、段階ごとのゴールが必要です。今回は、FIREについて、具体的なステップを考えてみます。
STEP1:家計の黒字化
まず第1のステップは、「家計の黒字化」です。「FIREなんてお金を増やせばいいんでしょ?」と思いがちですが、単なる投資術とFIREの違うところは、それが生き方自体を表していることです。
いくら資産が増えても、それだけでFIREは実現しません。資産が数億円あってもとんでもないペースで使ってしまう人はたくさんいます。どのような生活を目指すのか、どのくらいの支出を行うのか。それは実は一朝一夕に身につくものではなく、将来を見据えた自覚が必要です。
その意味で、最初に必要になるステップは、支出を収入以内に抑えることです。これはできている人には当然ですが、難しい人にとっては不可能に感じるはずです。ぼくも20代のころはそうでした。慢性赤字でボーナスでなんとか補填する感じ。この状態だと、投資でプラスの利回りを得るのではなく、借金でマイナスの利回りを食らう道にまっしぐらです。何はともあれ黒字化。ここで工夫して黒字化できると、自分に見合った生活水準も身につくようになります。
ちなみに、この段階ではあまり投資をする必要をぼくは感じません。いつ家計赤字になるとも限らない段階で、下手にリスク資産に手を出すと、生活に困って取り崩してしまったり、資産が増加するとうれしくて「利確」したくなったりするからです。
マジックナンバーは100万円。ここまでは預金でかまわないと思っています。
STEP2:ターゲット貯蓄率を超える
家計が黒字化できたら、FIREに向けたレールに乗れたといえます。ここからは時間との勝負です。というのも、一生働き続けたいと思っている人以外は、いつかのタイミングでリタイアするものだからです。
30代、40代でリタイアするFIREの人もいるかもしれません。50代で早期退職や、60代で定年を迎えてリタイアする人もいるでしょう。70代、80代まで元気なら働き続けるという人もいると思います。どのタイミングでリタイアしたいか。これは人生の選択であり、正解はありません。FIREというのは、この時間軸が人より数十年早いだけです。
時間との勝負と書いたのは、FIREに向けた資産形成を早く始めた人ほど、当然ながら早くリタイアできるということです。リタイアするかどうかにかかわらず、リタイアする選択肢、オプションを手に入れることができます。FIREのFI、Financial Independent、経済的独立を手に入れられるのです。
ここで意識したいパラメータは貯蓄率です。人によって投資に回せる金額は違うでしょうし、生活費も違います。将来見通せる昇給率も違うでしょう。それでも、一般に「収入が多い人ほど生活レベルも上げてしまう」というのは概ね真実です。つまり、年収がいかに多くても、ガンガン昇級しても、それにともなっていい生活をしていたら、資産はたまらないということです。
しかもいったん上がった生活レベルを下げるのは、ほぼ不可能だと思うべきです。FIREのために、年間生活費の20倍程度は必要だとすると、生活レベルが低い人なら5000万円でFIREできても、生活レベルが高い人は3億円あっても無理になります。貯蓄額の多寡ではなく、貯蓄率こそがFIREを成功させられるかのカギになります。
イメージとしては、収入の35%を投資に回し、それを6%で運用できれば、スタートから20年後にはFIRE可能な金額(生活費の20年分)が貯まるという感じです。自分に可能な貯蓄率を設定し、それを超えられるかどうかを試すステップになります。
ここでは、引き続き自分が心地よいと感じられる節制レベルを見極めながら、投資もスタートします。節約はダイエットなどと同じで、一時的に無理をしても続きません。厳しすぎず緩すぎない、ちょうどいいレベルを探していくしかありません。
投資も自分にあったリスク許容度を調べるステージです。FIREに向けた投資で最も重要なのは、怖くなって投資を止めてしまうこと。しかし、20%、30%の暴落があると、怖くなって「いったん損切りだ!」と思ってしまう人も多いものです。どのくらいの(一時的)損失までなら自分の心が耐えられるのか、それを探るのがこのステージです。
リスクが決まれば、自ずと期待リターンも決まります。株式100%なら長期的に年平均6%くらいのリターンを期待していいでしょうし、株式50%ならその半分。この期待リターンと貯蓄率の組み合わせで、FIREできる年齢の目標が見えてきます。
STEP3:年間リターンと配当金が、年間投資額を超える
ここからは巡航モードに入ります。一定率の貯蓄が可能な節制が身について、心が脅かされないリスクレベルと、一定のリターンが得られるポートフォリオを作れたら、それを維持するモードです。
巡航といっても、常に平穏無事な航海はありません。これまでになかったような嵐も来ますし、想定外の追い風が吹くこともあります。ぼくはこれまで2回の暴落を経験しています。一度目は2008年の金融危機(リーマンショック)、そして2度目はコロナショックです。
コロナショックはまだ現在進行中であり、どうなるのか予想もつきません。ただし、リーマンショックのときは、下げが3年くらいズルズルと続きました。後知恵でいえば、初期に損切りして底を待って再投資した人が成功したのでしょう。でも、コロナショックで同じように対応しようとした人は、来ない二番底を待って、大きな上昇を取り逃したのではないかと思います。
この10年以内に投資を始めた人は、コロナショックが初めての大暴落になります。そこまでは順風満帆、まぁ米国株に投資していればコワイくらい順調に資産が増えていきました。そこで来たコロナショック。踏ん張った人もいると思いますし、損切りしてしまった人もいるでしょう。うまく底で追加投資した人もいると思います。
ともあれ、FIREまでの間に、市場はこれまでになかったような動きをします。誰もが初めて体験するようなうねりの中で、投資を継続できるか。日々これを試されながら、前に進むしかありません。
ステップの区切りとしては、年間リターンと配当金の合計が、年間に追加投資している額を超えたタイミングになると思います。年間100万円投資に回している人なら、資産からのリターンがほぼ安定的に100万円を超えたときが、この段階の卒業時期です。
追加投資額100万円で、期待リターン4%のポートフォリオなら、資産2500万円というところでしょうか。
これが重要なのは、投資によって資産を膨らませるエンジンが、収入からの入金ではなく、投資自体が生み出すものに切り替わったからです。つまり、資産自体が雪だるま式に増えるモードに入ったということです。自分自身が資産を増やすために行う努力を、資産自体が自律的に増える力が上回ったということです。
この段階に至って初めて、「投資家」となったと言ってもいいのかもしれません。極端な話、一切追加投資しなくても、これまでに近いペースで資産が勝手に増えていくステージに到達したということです。
STEP4:年間リターン+配当金が、生活費を超える
しかしFIREを目指すなら、さらに次のステップがあります。そうです。資産の増加が必要な生活費を超えるステップです。ここに至ると、生活するために働く必要がなくなります。資産が生み出す収益だけで、暮らしていくことができるわけです。このステップ4が、FIREのいったんの完成形となります。
ステップ3から4に移行するのは、当然ですが入金を続けることで早まります。また、もしもステップ3で入金を止めてしまうと、それは生活費の上昇を意味しますから、FIREへ必要な金額は増加し、年数も余計にかかることになります。いつFIREしたいのかは人それぞれなので正解はありませんが、やはりステップ3は過渡期だということです。
FIREの「いったんの完成」と書いたのは、ここから思考モードを切り替える必要があるからです。これまでは、資産額を増加させるステージでした。ところが、ステップ4を達成してFIREに移行すると、資産を取り崩すステージに移行します。これまで資産は増えるばかりで、自らの意思で取り崩すことはありませんでした。しかし、FIRE後は、意識的に資産を減らしていかなくてはならないのです。
FIREに至って、これまでのステージと最も変わることは、市場環境によらず資産からの取り崩しが発生するということです。「取り崩しをしても増えているよ?」という人もいるかもしれません。実はこれは2つの意味で問題があります。
1つは、必要以上に資産を増やしてしまった可能性。人生は短く、やりたいことは無限です。FIREを目指したということは、少しでも早く、少しでも若いうちに自由を得たいと思ったはず。なのに、貴重な数年を労働と束縛に使ってしまったのかもしれません。
もう1つは、単に市場環境が良いだけという可能性です。市場は良いときもあれば悪いときもあります。良いときは、生活費を使ってもそれを超えるペースで資産が増加することもあります。しかし、いったん市場環境が悪化すると、資産の減少はすごいペースで進むリスクがあるのです。
FIREまでは長期投資の考え方に基づいてリスクを取って資産を増加させてきました。ところがFIRE後は、できるだけリスクを抑えて、安定的な減少に努める必要があります。資産形成期と資産取り崩し期では、考え方が真逆になるわけです。
アフターFIRE:資産取り崩し期の考え方
例えば、形成期では一般にドルコスト平均法と呼ばれる定額の積み立てが有効でした。下落時に投資効果を高めてくれるからです。ところが取り崩し期では、逆に定率で取り崩すのがセオリーです。
長期投資ではリスクを取った方が期待リターンが向上するため、残り期間があるなら大きなリスクを甘受して期待リターンを高める手法が(心が耐えられるなら)理想です。ところが、取り崩し期では、平均的な期待リターンを高めるよりも、リスクを抑えて最後まで資産が計画通りに維持できることのほうが重要になります。
そう。ステップ4を迎えて取り崩しステージに移行したら、これまでの資産運用の考え方を切り替えて、必要なだけのリターンを確保しながらいかにリスクを抑えられるかにフォーカスすることになります。
日本では、この資産取り崩し期の手法はあまり情報がありません。しかし、FIRE後に形成期と同じ手法を続けたら、10年以上続く市場低迷がやってきたときにはアウトとなります。生活費20年分の資産を作り上げ、ここから運用益と取り崩しで最後まで暮らそうと思っていた矢先に、株価が半減する暴落が起きたらどうなるでしょう。半減した資産は10年分しかストックがありません。そして10年間株価が低迷している間に、引き出す生活費によって、資産はゼロになってしまうわけです。
ぼくはいまステップ4を超えて、資産取り崩し期にあり、この手法を研究中です。FIREに至るまでは、フルインベスト、株式100%のポートフォリオで年平均リターンが15%〜30%程度で推移してきました。そこからアセットクラスの分散を進め、現在の目標リターンは4%です。それぞれのアセットクラスの期待リターンを計算し、期待されるリターンが4%になるようなアロケーションを設定したということです。
にもかかわらず、2020年はコロナバブルがあり、年間リターンは23%を超えてしまいました。これはつまり、同じポートフォリオで20%近い下落もあり得るということでもあります。まだ少しリスクを取り過ぎかもしれない。そんな気もしています。
ともあれ、FIREのステップを4つに区切って、それぞれのゴールと、何を意識すべきかをまとめてみました。実体験でいえば、最も辛かったのはステップ1です。そして最も時間がかかったのがステップ2。当然ながら、金融危機後の素晴らしい10年に恵まれたことが、ステップ4までを20年かからず達成できた理由でしょう。