『ウォール街のランダムウォーカー』12版再読も、残すところあと2章まできました。14章は個人投資家に向けた具体的な投資のポートフォリオについてです。
総リターンを決めるアセットアロケーション
ロジャー・イボットソンによれば「投資の総リターンの90%は、投資家の選択したアセット・ミックスによって決まる」と、筆者は書きます。その上で、アセット・ミックス=アセットアロケーションの注目点は下記の5つです。
- リスクとリターンは正比例している
- 投資期間が長いほど、リターンの変動幅は低下する
- ドルコスト平均法は、株式債券投資のリスクの軽減に役立つ
- リバランスはリスクを低下させ、リターンを高める
- リスク許容度は、個々人の総合的な財務状態に依存する
投資期間が長いほど、リターンの変動幅は低下する
投資期間が長くなると、よく「リスクが低下する」という人がいますが、これは正確には間違いです。当然ですが、価格の変動という意味でのリスクは、期間が長くなるほど高くなります。
ビットコインを10秒持つのと10日持つのとでは、どっちが大きく価格が動いている可能性が高いと思いますか? そういうことです。
一方で、投資リターンのバラツキは小さくなります。平均で6%のリターンといわれる株式投資も、毎年確実に6%のリターンがあるわけではありません。ある年は30%(そう、2021年のように)のリターンがあったかと思えば、ある年は▲20%、そしてある年は10%という具合です。これを均して平均すると6%くらいなるということです。
この理由から、筆者は次のように書きます。
投資対象を保有し続けられる期間が長ければ長いほど、ポートフォリオに占める株式の割合を高めるべきなのだ。一般的に言って、投資期間がかなり長期になって初めて、株式からの平均的に得られる高いリターンを期待することができるのだ。
ただし、繰り返しになりますが、長期投資になるとリスクが減るわけではありません。例えば、
投資の最後の瞬間に、もしかするとポートフォリオの時価が暴落するような悲惨な目に遭う確率は、保有期間が長いほど大きいのだ。
ドルコスト平均法はリスク軽減に役立つ
筆者はドルコスト平均法を、次のように書きます。
間違ったタイミングで株式や債券に有り金すべてをつぎ込む愚かから身を守る投資方法である。
ただし、正直このパラグラフでのドルコスト平均法についての記述は、エビデンスも明確なロジックもない表現のように思います。
なぜなら筆者がドルコスト平均法を勧める最大の理由は、
株価が暴落してまたとないバーゲン価格で追加の株が入手できるという、このアプローチの最大のメリット
という点にあるからです。筆者は、効率的市場仮説の信奉者でありながらも、繰り返し、市場は本質的な価値に対して高くなりすぎたり、低くなりすぎたりすると述べています。これは、市場が非効率だという意味ではなく、いずれは適正な価格に戻ってくるのだから効率的だというロジックです。これはつまり、株価は割高なときもあれば、バーゲン価格もあるということです。
ではいつがバーゲン価格なのか。意外にも、筆者は今がバーゲン価格なのかどうかは分かるという立場のように思います。繰り返し「相場の先行きを読むことはできない」「タイミングを図っての投資はうまくいかない」と書いているものの、今が割安かどうかは分かるという感じです。そして、割安を逃さずに追加投資するには、ドルコスト平均法が優れていると主張しています。
一方で、「市場が右肩上がりの時は初期一括投資に比べてベストといえない」とし、さらに「遺産相続のようなまとまった資金を一度に投資する際には、株価の長期上昇トレンドを考慮すると、必ずしもこの戦略が最適とは言えない」ともしています。うーん、どっちなんでしょうね。
4%ルール
本章はプチFP章という趣で、最後に4%ルールにも触れています。そうそう、総資産の4%を取り崩して生活していくのなら、死ぬまで資産が持つ——というものです。
よくある疑問として、「どうしてたったの4%しか取り崩せないのか、と思う読者も多いだろう。というのは、株式も債券も、平均すれば年率4%以上のリターンをもたらす可能性は高いからだ」というものがあります。この理由は2つあります。
1つはインフレ。例えば、長期平均でみると株式は年率7%、債券は4%のリターンが期待できます。これを5対5の割合で組み合わせた場合、年平均5.5%のリターンが期待できます。インフレが平均して1.5%で進むとするなら、元本を毎年1.5%ずつ増加させる必要があります。つまり、5.5%から4%だけ引き出せば、1.5%ずつ元本が拡大するというわけです。
2つめはリターンは長期低迷することがあるためです。長期で平均すれば7%になるにしても、短期的には大きく落ち込む場合があります。
2008年から09年のように、相場全体が50%も暴落したと仮定しよう。もし引き出し率は7%に設定すれば、蓄えは10年で底をついてしまう。しかし、もし引き出し率を3.5〜4.5%に抑えられれば、たとえ100歳まで長生きしたとしても多分大丈夫だろう。
さて、次回15章で長かった書評も終わりです。