九条が保有する銘柄=ポートフォリオに関心をお持ちの方も多いということで、連載的に、保有する投資先の中で、評価額が大きい順に連載的に紹介していきたいと思います。「どんなナラティブを信じて保有しているのか」というメタトレンド的な解説が中心になります。
第1回は、実は保有資産の中で最大のシェアを持つBitcoinです。
Bitcoinナラティブ
もともとの投資額は100万円にも満たなかったBitcoinですが、2016年から保有しているだけあって、そこそこの資産額となっています。複数回売却しており、初期投資額はもちろん、けっこうな利益も確定させていますが、それでも現在総資産の9%超がBitcoinです。
ぼくはメタトレンドに沿った投資法を採っています。それは10年、20年といった長期で世の中がどのように変化していくか、それを牽引するものはなにかを考え、そこに投資する方法です。
例えばインターネットの普及期、2000年代にはGoogle(現Alphabet)やAmazonに投資し、スマホとSNSの勃興期にはFacebook(現Meta)に資金を投じました。GPT-4が登場しAIの進化が確定的になった2023年にはNVIDIAとMicrosoftにも投資しています。
いずれもその当時すでにブームであり、割高だと言われた投資先ですが、この企業が担いでいる技術、戦っている市場は急速に拡大し、世界を一変させるというメタトレンドへの合致から、長期に投資することができました。
では、Bitcoinにはなぜ投資し、どうして長期保有しているのでしょうか。それはデジタル・ゴールドです。
インターネット通貨というナラティブ
メタトレンドには、その技術がどうやって生まれ、今後どのように世界を変革していくのかという物語=ナラティブが欠かせません。ナラティブが強力ならば、信者と呼ばれるような熱狂的なアンバサダーが自発的に登場し、世間を啓蒙していきます。そして人びとが改宗するにしたがってさらにナラティブは自己強化され、世界に浸透していくわけです。
Bitcoinの場合、大きく2つのナラティブがあります。1つは法定通貨に代わる、発行体もおらず中間にある金融機関を信用する必要のない、決済・送金手段だというものです。Bitcoin登場まで、海外送金というのは銀行間のバケツリレーであるSWIFTを使うのが普通で、極めて高コストで時間がかかるものでした。また送る方も受け取る方も銀行口座を必要とし、日本では想像できませんが、銀行口座を開くのが難しい地域では、送金自体のハードルも高かったのです。
Bitcoinはインターネットに接続したコンピュータがあれば1分もかからず口座(ウォレット)を用意でき、世界中のどのBitcoin口座へも10分少々で送金できます。口座は匿名で作成できるため、送金も匿名で行えるというメリットもありました。
この「インターネット時代に即した送金・決済手段」としてのBitcoinナラティブは、非常に分かりやすく、急速に広まった感があります。しかし、時を経るとともに廃れていったナラティブでもあります。
1つは匿名で送金できるという利点が、逆に犯罪関連に悪用される点です。武器や麻薬などの取引をBitcoinで行えるシルクロードというサイトは摘発され、運営者は逮捕、過剰な罪状で投獄されました(第2次トランプ政権で恩赦)。
コストとスピードも課題です。Bitcoinが1万円くらいの価格だった頃は、国際送金の手段としては格安でしたが、すでに1000万円を超えている今、日常の取引にかかる手数料としてもとても高額に感じるようになってしまいました。10分に1回ブロックを生成するという仕組み上、送金速度が10分以上かかるのもネックです。数日かかる国際送金と比較すれば速いものの、日常の決済では銀行振込よりも遅いというレベルです。
送金に特化した改良版Bitcoinもたくさん登場しました。より高速でより低コストで送金できるという仮想通貨が多数登場し、送金用途においてはBitcoinの出る幕はありません。
一応、レイヤー2と呼ばれるBitcoinの上に決済専用のネットワークを重ねる仕組みを使い、Bitcoin送金を低コスト高速化するLightningネットワークなどの仕組みも開発されていますが、とても市民権を得たとは言えない状況です。
デジタル・ゴールドというナラティブ
もう一つのナラティブは、デジタル・ゴールドです。太古から希少で保存性が高い金は富の象徴でした。価値の保証を政府によらないという点でも、価値の保存手段として非常に優れていたわけです。
Bitcoinは、発行枚数が厳密にアルゴリズムで決められている希少性が非常に高いコインであり、その価値の源泉を政府に寄っていないという点で、非常に金に似ています。さらに持ち運びが容易で多額の送金も一瞬でできるなど、金を超える価値も持っています。
Bitcoinの開発者であるサトシ・ナカモトは、政府が勝手にマネーを増減できる現在の法定通貨の体制に疑問を抱いていたのではないかと見られています。Bitcoinの最初のブロックには次のように記録されています。
「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for bank」
「英財務大臣、二度目の銀行救済目前」
これは人為的に貨幣量をコントロールできる体制が逆にバブルや大不況を引き起こしていることを揶揄しているのではないかと推察されたわけです。
実は、政府が通貨量を増減させられる体制になったのは1931年のことで、それまでは各国の通貨の価値は金と紐づいていました。すべての通貨には金の裏付けがあり、保有する金以上の通貨は発行できなかったわけです。これを金本位制といいます。
金本位制においては、通貨の価値を保証するのは政府の信用ではなくあくまで金です。金は新たに生み出すことができず、掘り出せる量も極めて少なく、世界全体の金の量は50mプール4杯分だといわれるくらいで、基本的に希少性が担保されているからです。
経済学者の一部には、人為的に金融緩和が可能でバブルを引き起こせたり、金融引き締めの失敗で大不況をもたらす中央銀行制度よりも、金本位制のほうが望ましいと考える人達もいます。自由主義経済の考えかたをピュアに持つこうしたオーストリア学派の人たちです。
ただ世界各国が、もう一度金本位制に戻るのは現実的ではないでしょう。ではどうしたら、勝手に通貨量を変動させられる中央銀行制度から、通貨量を安定させることができるのでしょうか。金本位制が難しいなら、金の代わりにデジタル・ゴールドであるBitcoinを各国が準備金として保有すればいいのではないか。これがBitcoin=デジタル・ゴールドの終着地点です。
世界各国がBitcoin本位制に移行した世界では、すべての通貨はBitcoinを裏付けとして発行されます。保有するBitcoinの額以上の通貨は発行できないわけです。Bitcoinは政府が厳重に保管し、通貨はその預り証という位置づけになるといってもいいでしょう。
ここにおいて、Bitcoinはアルゴリズムで希少性が担保され、一度もハッキングされたことがないというブロックチェーンの信頼性が軸となります。実際に送金に使われたり決済に使われるのは、Bitcoinの預り証である法定通貨であり、Bitcoinは法定通貨の価値を保証するためだけに使われる世界です。
登場から17年、技術オタクのものだったBitcoinは次第にイノベーター層にナラティブが浸透し、2020年にはBitcoinを保有する企業が現れ、2024年にはBitcoinをラップした上場投資信託(ETF)も登場。Bitcoin自体を触らなくてもBitcoinのナラティブを信じ保有する人たちが増加しました。また2021年、エルサルバドルのBitcoin法定通貨化を皮切りに、政府によるBitcoinの活用が増加。2025年にはついにトランプ大統領がBitcoinの備蓄化を行うことを宣言しました。
決済や送金に使うものではなく、デジタルゴールドとして価値の担保となる存在へ。このBitcoinのナラティブは着々と歩みを進めています。このナラティブが生きている限り、ぼくはBitcoinを保有し続けるでしょう。