FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

1億円までの生々しい資産推移

先日、「資産1000万円到達したときの年齢と年収を教えて」というXのポストを見て、「えっと。資産1000万円になったのっていつだっけ?」と思って過去の日記などを見直してみました。すると、けっこう面白かったので、まとめてみました。

資産1000万円に到達したのはいつか?

ぼくは基本資産額などを公表していないのですが、このお題だと金額を書かないわけにはいきません。資産額を年1〜2回、集計してメモしてあるのは2007年からで、それ以前の明確なメモはありませんでした。

 

でも昔の日記を読み返してみたら、たまーに貯蓄額とか資産額に対する記載があるんですね。100万とか節目に達したときに書かれていたり、将来のこととかライフプラン的なことを考えたときに「今◯◯万円あるから……」とか記載されていたり。全般にいえるのは、まぁ資産額なんてあんまり気にしていなかったということです。

 

ともあれ、その少ない情報をもとにグラフにしてみました。貯蓄0のときのことは明確に日記にも書かれていました。そこから1年でやっと50万円貯め、翌年は100万円に到達。このときすごく嬉しかったことが書かれていました。

時は流れ5年が経過。資産額は500万円を突破します。このときも相当貯まったなぁと思ったわけですが、ここから増加ペースは加速していきました。1000万円到達のことは明確には記載がなかったのですが、7年目の後半のようです。

 

ぼくだって10万、20万と数え「やった100万円到達!」とか思いながら、8年近くかかってやっと1000万円に到達したということです。

資産1億円に到達したのはいつか?

1000万円に到達するまで8年というのを書いてみたので、ついでに1億円到達のタイミングも書いてみます。「あれ?九条さんって資産1億円超えてたの?」。そうなんです。1億円は超えていました。

 

はい。こちらが1億円までの推移。8年で1000万円に到達し、12年目には5000万円、14年目で1億円に到達しました。実際にはここまでの途中のある年からは毎年資産額をメモしているのでもっと詳細も分かるのですが、敢えてぼかしています。

これをすごい伸び!と思うでしょうか。いや僕も最初に見たときはすげー急角度で伸びてるじゃん、ぼくはもしかして天才か? とか思ったのですが、グラフを作り直すと「まーこんなものかな」という気持ちになりました。

 

下記は縦軸を対数にしたものです。ちょっと弓なりですがだいたいまっすぐなのがわかります。要するに毎年ほぼ一定率で複利で資産が増加していった結果がこれだということです。

最近までの資産の推移

さて最後に直近の資産と給与の推移を見て締めにしたいと思います。下記が直近20年の給与額と資産額の推移です。このどこかで資産1億円に到達したわけです。

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まぁ言えるのは、1000万とか1億とか言うと、縁遠い世界の話のように聞こえるものですが、着実に入金して運用していれば、特に後半は驚くほどのペースで資産は増えていくものです。

 

いまでこそ、1日で昔の年収分くらいの資産変動があったりもするわけですが、当初は1年で50万円貯めるのがやっとの生活をしていたことを思い出しました。資産の加速を感じ始めたのは、やっぱり1000万円を超えたあたりからでしょうか。2年程度で倍増しているのですから、入金力も相場もたいへん良かったのでしょう。

そんなわけで、まだ資産が少ない人も積み上げていけば、複利運用は裏切りません。一気に2倍3倍にしようとしてリスクの高い投資をしなくても、全然資産は増加するものなのです。

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FIERの、世間でよくあるQ&Aに九条が答えてみる


ABEMAのFIREテーマの番組(見てない)があったせいか、またFIREについてのもろもろがXなどで話題になっていました。久しぶりに、FIREについての疑問質問に対して、九条ならではの返答をしてみたいと思います。

Q:いくらあったらFIREできますか?

「いくらあったら」と聞く時点で、FIREに対して真剣に考えていないのではないでしょうか。本当に「自分がFIREするならいくら必要か?」と考えたら、どうするでしょうか。

 

必要な年間生活費を老後まで足し合わせて、それが資産額(運用後の)より小さければFIREできます。答えはこれが全てです。老後までの必要生活費は人によって違います。生活レベルも違えば家族構成も違う。持ち家かどうか、どこに住んでいるか。そんなことで必要な金額は全然変わってきます。

 

富豪のような生活をしていれば10億円あったって足りないですし、本当に質素な生活を一人で過ごすなら3000万円もあれば十分かもしれません。一律に「いくらあったらFIREできるか」と聞く時点で、自分で考えていないのではないでしょうか。

 

FIREというのは限りなく自己責任の世界です。正社員で働いていたら、いろいろな問題が起きても会社は生活を保証する義務を実質的に負っています。それが日本の正社員です。65歳まで働いたら、そこから先は日本国が、これまで収めた年金保険料に応じて生活費を出してくれます。それが日本の社会保障です。

 

ところがFIREというのは、そういった他人が用意した保障の世界から逸脱する行為です。守ってくれるカイシャはありません。少なくとも老後になるまでは年金はもらえませんし、FIRE後は大した年金保険料も払っていないので、受け取れる年金額も大したことはありません。それでもFIREしたいというのは、すべてのリスクを自分で引き受けるということです。

 

なのに老後資金の計算も自分でできないようなら、いくら資産があってもFIREなんてできないし、するべきではないのではないでしょうか。

Q:FIREするにはどんな投資をしたらいいですか?

FIREするための投資法に正解はありません。端的にいえば、死ぬまでの生活費を賄えるだけの資産を用意できればいいわけで、あとはそれを逆算して資産形成をやるだけです。

 

いうまでもありませんが、資産形成は次の式で成り立っています。

資産 = 入金力 × 運用期間 × 運用利回り

ということは、

  1. 入金力を上げる
  2. 運用期間を伸ばす
  3. 運用利回りを上げる

の3つしか方法がないことになります。そしてFIREするというのは(2)の運用期間を自主的に短くすることですから、入金力を上げるか運用利回りをアップするかしかありません。

 

そして運用利回りは、よほど特殊な才能を持っている人以外は、継続して平均を上回ることは難しいです。ぼくの投資成績を見ると、記録が残っている2007年からの平均でも、年平均リターンは12.2%でした。

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これは現金も含めた総資産の運用リターンです。株式の平均リターンが6-7%と言われる中で、この平均リターンはちょっとしたものじゃないかと自慢したくなります。でも、それであっても、FIREしても大丈夫かな? と思えるまでには10年以上かかっているのです。そしてインベスターリターンを見ればわかるとおり、相当額の入金を行っています。

 

もちろん、世の中には1年で資産を何倍にも増やしてFIREにたどり着いた人もいます。しかし、特殊な才能を持っている人を除けば、それはじゃんけんでたまたま10回連続で勝ってしまった人と変わりありません。

 

そして株式の期待値である年平均6-7%のリターンでFIREするには、入金力をアップするしかない。なので「FIREするにはどんな投資をしたらいいですか」の答えは、とにかく入金力をアップしようという、人によって身も蓋もないと思えるような回答になるのです。

 

ただし実際にFIREした人に聞いたら、その多くが同じように答えるでしょう。「こんな投資法をすればFIREできるよ」という人がいたら、十中八九詐欺師だと思います。

Q:家もクルマも結婚もお金の無駄なので節約しています

世間にはひたすら節制して入金に回しFIREする「リーンFIRE」スタイルもあれば、使いたいものにはお金を使いつつ、それでも余ったお金を運用してFIREする「ファットFIRE」もあります。

 

別にどっちが正しいFIREだとか、間違っているとか、ぼくはそういうふうには思いません。それはスタイルの違いであり、人があーだこーだいうことではないと思っています。

 

少ない入金と適切な運用期待リターンでFIREするには、節約して生活コストを抑えるしかありません。別にお金を使わなくても、今の日本では十分に暮らしていけるし、十分に文化的です。支出を増やすことが人生の満足度につながるというのは偏った考え方でしょう。

 

逆に、貯蓄も資産形成も全くせず、稼いだ金はぱーっと使ってしまう。そんな江戸っ子的な生き方も素敵だと思いますし、別に死ぬまで働いて、働いた分だけ使うという考え方もいいんじゃないでしょうか。

 

ただ節約ライフスタイルや浪費ライフスタイルを、家族にまで押し付けるのはどうかと思います。そのへんはよく相談したほうがいいのではないでしょうか。

Q:FIREしているのに働いているのはおかしくないですか?

FIREはFinacial Independent Ritirement Earlyの略なので、文字通りに取ればリタイアしていなければFIREではありませんね。

 

ただRetirement≒引退 にはさまざまな意味合いがあって、例えばスポーツ選手が現役を退くのはリタイア、引退でしょうが、その後全く仕事をしないという意味ではありません。同様に、これまでのキャリアを降りるのは引退だけど、その後好き勝手に働いても、それは引退しているといっていいんじゃないかと勝手に思っています。

 

一方で、FI=金銭的自立を実現していないのに、FIREだというのはぼくにはちょっとしっくり気ません。パートタイムの仕事を続けるサイドFIREとか、仕事は継続しているけど資産がある程度貯まったのでこれ以上の貯蓄は不要な状態を表すコーストFIREとかは、なんだかちょっとFIREの幅を広げ過ぎじゃないかと感じてしまいます。

 

また、全くFIには達していないのに、会社員を辞めて自営業に移行する人がいます。これを脱サラというならまさに脱サラで、素晴らしいことだと思います。でも、自分のビジネスを売り込むことを目的に、この状態で「FIREしました」というのは、どうでしょう。それってFIREを商材にしてますよね? そう思うと商魂たくましいという思いと合わせて、こういう人と一緒にしないでほしいという憤りを感じるわけです。まぁご容赦ください。

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Q:FIREしても暇すぎて毎日が退屈そうです

FIREしても暇すぎ、というのはよく聞く話でもあります。いやFIREした人からでなく、FIRE否定論者からよく聞くのです。ではどうしたらいいのかと聞けば、「働け」というのが、こういう人の定番の返答です。

 

それを聞くたびに、いつから仕事はそこまで大事なものになったんだ? と思います。実は仕事=自己実現 という考え方が定着したのは、そんなに昔のことではありません。自己啓発書の歴史を紐解いた『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は

2000年代以降、日本社会は「仕事で自己実現すること」を称賛してきたからです。

と書いています。この本は、それ以前の読書の目的、あり方について、なぜ人々は本を読んだのか? という観点で紐解いているのでぜひ読んでいただきたいのですが、少なくも90年代以前は、自己実現とは仕事を通じて行うものではなく、消費や趣味の中で行うものだったのです。

FIERしても暇なら、本を読んだり趣味に没頭すればいいわけで、なぜそうではなく仕事をしないと暇だと思ってしまうのか。そこには、仕事=自己実現というたかだかこの数十年の価値観が色濃く染み込んでいるではないかと思ったりもするのです。

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FIRE志望者が増えると労働する人が減って困るのか?


久々にFIREの話題を。先日「FIREする人が増えると、労働する人が減って社会としては困る」という投稿を見ました。まぁそういうイメージ持つよね、と思いつつ、イメージで語ってはよくないと思い、ちょっと調べてみました。

働いている人の割合はどのくらいか

まず人口のうち、どのくらいの人が働いているのか見てみます。下記は総務省の労働力調査(2022年)。総数でいえば、日本人のうち就業しているのは約7割で、その比率は年々増加傾向にあることが分かります。

 

男性の就業率は高く、女性は低いのですが、近年とみに就業率が増加しているのが女性です。

上記のデータは「完全失業者」を含まない就業者の比率を示したものです。これを年齢別に見てみましょう。2022年のデータをグラフにすると次のようになります。

全体でみると、就業率は60.9%ですが、男女で差があって、男性69.4%、女性53%なのは先に見た通り。うち、労働力人口と呼ばれる15−64歳の中での就業率を見ると、男性が84.2%、女性72.4%、合計で78.4%となります。


このうち、25歳から54歳の比率はだいたい一定していて、次のようになっています。

  • 男性 93.2〜91.3% ほぼ9割が就業
  • 女性 78.4〜81.4% 約8割が就業

この就業率は実は60歳を超えてもいきなりは下がらず、わずかな減少にとどまります。これが一気に下がるのが65歳からで、65−69歳を見ると、男性61%、女性41.3%、合計50.8%と約半分がリタイアする形です。これは65歳から標準的には年金がもらえるようになるというのも影響しているでしょう。

 

これらのデータから分かるのは、15−65歳の労働力人口の中でも、働いているのは4人のうち3人だということ。25-54というコアでみても、働いているのは男性8割、女性8割ということです。

FIRE可能な資産を持つ人の比率

ではFIRE可能な資産を持つ人はどのくらいいるのでしょうか。下記は有名な野村総研の富裕層調査です。これは不動産を含めない純金融資産であり、かつ個人ではなく世帯となっていますが、ここからいろいろ推計できます。

まず純金融資産1億円以上の富裕層以上は、148.5万世帯。これは全体の2.7%にあたります。

 

ただこうした富裕層のほとんどがシニアに偏っているのが日本の特徴です。10年以上前の古いデータですが、キャップジェミニのレポートによると、日本の富裕層の42%が66歳以上で、46歳未満は20%に過ぎません。

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FIRE候補者は0.5%

つまりFIREの条件を、

  • 資産1億円以上 全世帯のうち2.7%
  • 46歳未満 全世帯のうち20%

だとすると、全人口のうち0.54%しか該当しないということになります。200人に1人のレベルです。これが潜在的なFIRE候補者です。

 

FIREするかどうかの意図はともなく、資産規模と年齢の条件から見ると、FIREしたくてもできる人はこのくらいだということです。つまり、これらの人が全員FIREに踏み切ったとしても、就業率は0.5%しか変化しないことになります。

 

実際のところ、「若くして億を超える資産を作った人」というのは、起業家やビジネスで成功している人がほとんどで、FIREしようと思ったら可能だけど、踏み切る人はごくごく少数です。昨今のFIREブームで、この比率が多少増えた可能性はありますが、まぁ全体でいえば誤差といっていいでしょう。

 

またFIREブーム、そして資産運用ブームによって、支出を切り詰めて資産を蓄える人が増えた可能性もあります。ただ総務省の調査によると、平均貯蓄高は2018年から徐々に増えてはいるものの、1752万円→1901万円と8%程度のアップにとどまっています。FIREで投資ブームがあったといっても、若年層の資産が一気に増えたという証拠はありません。

FIREはライフスタイル

こうしたデータからは何がいえるでしょうか。FIREがブームになったとしても、実際にFIREできるだけの資産を、FIREといえる年齢で形成できる人はごくごくわずか、全人口の0.5%程度に過ぎないということです。

 

さらにそうした潜在的FIRE候補者のうち、実際にFIREするのは50人に1人(0.01%)といったところではないでしょうか(主観)。日本のFIRE人口が1万2000人という計算になりますが、どうでしょう?

 

もしこの比率が2倍になったとしても、0.02%。冒頭で調べて労働者比率に対する影響は誤差以外の何者でもありません。FIREがどうかということよりも、そのほかの影響のほうがはるかに大きいわけです。

 

こうしたことから言えるのは、FIREは日本の労働力に影響を与えるような何かではなく、ライフスタイルだということです。国民は日本という国のために存在しているわけではなく、国民の安全と幸福のために日本という国は存在しています。仮にも自由主義の国である日本において、国民が好きなライフスタイルを選択できるよう日本国はサポートするべきであって、日本国の制度存続のために国民のライフスタイルが影響を受けるのは本末転倒です。

 

そうでなくても、日本は欧米に比べてFIREに代表される早期リタイアに否定的な国民性です。昨今のFIREブームによって、個人のライフスタイルの自由が尊重される社会になるなら、それは日本の自由度がアップしたということで、喜ばしいことではないかと思っています。

 

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過去20年の給与と資産額を大公開

人の給料額や資産額って気になるものですよね。というわけで、今回はぼくの過去20年間の給与と資産額の推移を公開します。振り返って、思ったことなども。

過去20年の給与と資産

定期的に、自分にもしものことがあったときのために、財産目録などを作っています。その中で、いくつか数値的なものをアップデートしていたら、給与履歴と資産履歴がちょうどあったので、これをまとめてチャートにしてみました。

給与のほうは2003年から記録があったのですが、資産額のほうは2007年からしか付けられていません。いずれも2007年を1として、指数化しています。このチャート、なかなかに示唆深いですね。

給与

給与はキレイな右肩上がりです。2011年にジャンプアップしていますが、これはリーマンショック直前に役員になり、給与カットを受けていたのですが、それが元に戻ったせいです。その後も順調に給与は増え続け、セミリタイアした最終年、2018年がピークになりました。2007年から比較すると約1.6倍といったところ。業績も絶好調で賞与もふんだんにもらった年でもあります。

 

ただし、2003年と比較しても2.2倍にしかなっていません。そう、この下方硬直性と伸びの緩さが給与ならではです。もし給与だけで、ストック・オプションがなかったら、かなり資産の増加ペースは遅くなっていたことでしょう。

 

そして19年にセミリタイアしたことから給与は半減。そこから下がり続けます。2022年には2003年とほぼ同じ額になっていましたから、20年経って元に戻ったという感じです。

支出

実は支出については記録が残っていません。ただ振り返るといろいろと思うこともあります。というのは、実は新卒で働きだしてから現在に至るまで、ほぼほぼ支出額が変わっていないのではないか? ということです。

 

新卒から数年は、ものすごい量の残業と休日出勤で年収が4桁に届くこともしばしばでした。そしてそれを全部綺麗さっぱり使ってしまっていたんです。学生時代もアルバイトで30万円くらいは稼いでいたので、仕送りと合わせて手取り40万円くらい。その当時から、持っているカネは全部使うという感じでした。就職とともにクルマも買ってと出費もかさみ、これだけの手取りがあっても足りないくらいだったのです。

 

その後、貯蓄に目覚めて支出を減らします。といっても転職して給料が大きく下がった(というか残業とか休日出勤がなくなった)こともあり、節約ができなければ完全に家計破綻となるところでした。

 

よかったのは2000年代に給与が上昇しても、生活レベルをほぼ上げなかったことです。新卒当初から金遣いが荒かったので、それと同レベルの生活が続いてきたともいえます。結果、給料が上がった分はほぼほぼ貯蓄・投資に回すことができ、月30万円とか入金できていました。

 

給与がピークに達した2015年頃からは、実は入金を止めていました。もはや資産の増減があまりに大きく、入金がほとんど誤差のように感じたからです。その頃は、あまり支出のセーブを考えず、欲しいものはたいてい買っていました。そして現在は、この頃と同じくらいの支出レベルで過ごしています。

資産

資産も2007年を1としていますが、こちらはよりハイペースな右肩上がりで推移しました。セミリタイアを決めた2018年のタイミングでは、資産額は07年の約9倍まで増えていました。この時点で「まぁ”セミ”リタイアなら死ぬまでなんとかなるだろう」という計算をしていたわけです。

 

ところが入金ゼロ(というかマイナス)にもかかわらず、資産は増え続けます。結果、完全FIREした2023年には、セミリタイア時のさらに2.5倍にまで成長しました。07年から比較すると23倍です。

 

このくらいの額に達すると、もはや入金は誤差です。正直、あってもなくても大して変わらない。さすがに「生活費は誤差」とまでは言えないので、気にはしなくてはいけませんが、生活費を賄っても資産の成長のほうが大きい段階に来ています。

 

配当などのインカムゲインキャッシュフローの額だけでも、07年当時の給与額を上回ってきました。さすがに給与額がピークだった18年には及びませんが、副業なども合わせると、それに近いところまで来ています。

ステージを切り替えていくのが人生

ここで経済的な側面から人生の各ステージを振り返ってみましょう。

 

まず22歳までの最初の20年は人的資本を蓄える時期でした。親にすべてを支えてもらい、自分のスキルを高めます。経済的には全く何も生み出していませんでしたが、今後に向けた発射台を作っていくステージです。

 

そこから40代なかばまでの20年は、人的資本に経験を加えつつ、それを金融資本に変換していく時期でした。つまりスキルと経験を給与に替えて、給与から株式など金融資本を構築していくステージです。

 

ここである程度金融資本が貯まると、自律的に資本の成長が始まります。人的資本から燃料を投下しなくても、雪だるま式に増えていくようになるのです。ぼくがセミリタイアを決めたのはこのタイミングでした。

 

これからは金融資産をベースに別のものに変換していく時期です。それは自分自身の経験でもあるし、家族にいろいろな意味で引き継いでいくということでもあります。さらに、コミュニティや社会に貢献したいということでもあります。3つ目のステージを楽しもうと思っています。

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あなたは幾らで「FIREを買います」か?

FIREが売っているなら、あなたは買いますか? いくらなら買いますか? FIREって、節約したり投資手法を磨いたりして資産を増やし、清水の舞台から飛び降りるつもりで退職して達成するもの――みたいなイメージがあるかもしれませんが、実は普通に売っています。

FIREの値段

貯蓄して運用してせっせと構築してきた資産。それがついに1億を突破しました。そんなとき、1億円のプライスタグがついた商品が売っています。それは「FIER」。さあ、あなたはFIREを買いますか?

 

実はFIREというのは、これからの生活の自由をお金で買う行為です。

 

普通の人なら、これから10年、20年働き続けて収入を得、そのお金で生活を賄います。でも、その10年、20年分の時間を買ってしまう。これがFIREなのです。つまり、老後までの自由時間につけられた人生の値段。それがFIREの値段だといえるでしょう。

FIREはいくらか?

ではFIREはいくらでしょうか? まずざっくりとみんな65歳には引退して年金生活に移行すると仮定します。そのとき、これだけあれば老後も大丈夫かな? と思える金額はいくらでしょうか。「老後2000万円問題」のときに言われた2000万円? それとも3000万円? これは人によっていろいろだと思いますが、仮に3000万円だとしましょう。これがいわゆる老後資金です。

 

そしてFIREするなら老後までの生活費が必要です。あなたはもし65歳まで働き続けたら年平均でいくら稼ぐ見込みでしょうか? 500万円くらい? 1000万円くらい? この年収に、FIRE後65歳までの年数を掛けたものが、FIREの値段になります。

 

平均年収500万円で、いま40歳なら、FIREの値段は1億2500万円。50歳なら7500万円。年収が1000万円想定ならこの倍です。

 

この金額と老後資金を足した金額が、いま手元にあるならFIREが可能だという計算になります。例えば、必要老後資産が3000万円、働き続けたときの年収が500万円で、いま45歳なら1億3000万円あればOKということになります*1

 

このFIRE計画は資産運用を前提とせず、取り崩しだけを想定したものなので、極めて保守的です。これだけの資産があればFIREには問題ありません。

1億3000万円でFIREを買いますか?

さて、こうやって計算してみると、FIREの値段が具体的にイメージできるかと思います。年収500万円の人が45歳でFIERするなら必要な資産はざっくり1億3000万円です。このうちFIERの値段は1億円です。

 

ただ本当にFIREを1億円払って買いたいですか? 1億円あれば、立派なマンションや家をローンなしで購入できます。1000万円超の高級車を2年毎に買い替えてもお釣りがきます。1回100万円かけた海外旅行を年4回行っても問題ありません。はっきりいって、超リッチな生活ができるわけです。

 

こうしたものをすべて諦めて、FIREを買いたいでしょうか?

 

こんなふうに考えると、「FIREできるだけの資産がある!」という人でも、実際にFIREを実行する人がそうそういないのもよく分かります。「資産が貯まればFIREできる」のは事実ですが、「FIREを1億とか2億とかで買う」と考えると、「それは高すぎる」と思っても不思議ではないからです。

 

そして、FIREを買っても資産がたくさん残るような人ならFIREにも躊躇がないでしょうが、多くの人はFIREするのにギリギリな資産額しかないのが普通です*2。そんな中、FIREするというのは資産のほとんどを使って大きな買い物をするという意味になります。

 

さて、あなたはFIREを買いますか?

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*1:ただしFIREした場合、それだけ厚生年金が減ることには注意が必要です。その計算式は、年数×年収×0.005481。例えば先の年収500万・45歳でFIREした場合、20年×500万×0.005481で、54万8100円、年間の厚生年金が減ることになります。つまりその分老後資金が必要になる。65歳から死ぬまで35年と仮定すると、約2000万円追加で必要になる計算です。詳細はこちら

*2:だからFIREしても働き続けるサイドFIREなんて言葉もあるわけです。

FIREしてから約半年 心配事と要改善点

2023年8月にFIERしてから約半年が過ぎました。現状と心境を綴っておきたいと思います。

お金の心配

FIREとかいうと、最も気になるのはお金です。ただ幸いながら、現状はお金について悩むことは全くありません。5年前に、生活費の約20倍の資産でセミリタイアし、そこから市況の好調もあって現在は生活費の30倍まで資産額が拡大しました。

 

この状況は当然好調な株式市場の恩恵を受けたためです。ただし、市場の良し悪しに左右されないよう、太陽光や不動産など複数資産への分散を進めてきた結果、単に生活するだけならこれらの資産からのキャッシュフローで、相当分賄える状態になりました。

 

というわけで、お金については不足を心配するステージから、いかに死ぬまでに有意義に使い切るか? というステージに移行しています。

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運用やポイ活などをせっせとやっていますが、これらは基本的にゲーム感覚で、実際のお金が増えたり減ったりしている肌感覚はありません。投資は、この感覚でないと夜眠れなくなったり、不安で常時チャートを見るようになってしまったりと弊害が大きいので、ゲーム感覚がちょうどいいと思っています。

働くということ

毎日、たっぷりゲームをして好きなだけ本を読んで、街に出たり昼からビールを飲んだりしているわけですが、一応仕事もしています。お金を稼ぐというよりも、社会との接点であり、仕事を通じて得られる知識や体験は、ほかの消費的なレジャーとは全く異なる質だと思っているからです。

 

ただ毎日が仕事メインになってしまっては本末転倒です。1日に1〜2時間程度を目安として、働く時間をコントロールしています。気分が乗れば2時間ぶっ続けで稼働することもありますが、これ以上は働きたくない。

 

基本、午前中はゲームしたり本を読んだりして、お昼ごはんを作って食べたら午後、1〜2時間仕事をします。その後はブログを書いたり、家事をしたりして、7時から夕ご飯。そのあとはゆっくりお風呂に入って9時過ぎには布団に入るというスケジュールです。

 

また好きなときに旅行に出かけたりできるのがFIRE生活のいいところ。なので締切が厳しい仕事は基本的にしません。その日で完結するものか、1〜2週間先でもいいものに限定しています。この方針は今のところうまく回っている気がします。

自由な時間

仕事が最優先ではなく自分のやりたいことが最優先なので、旅行などもちょくちょく出かけられています。会社員だったときは、長期休みでもメールチェックとかKPIの進捗が気になったり、どうも気が休まらなかったのですが、FIRE後はそうした気持ちが全く消えたのが素晴らしいことです。

 

また子供の長期休みに合わせて各地に旅行に行けるのも素晴らしいことです。子供がもう少し大きくなったら、長期一人旅も行きたいところです。

寂しいか?

FIRE後は人と触れ合うことが減り、寂しくなる人もいるようです。ぼくの場合は実はほとんど状況は変わっていません。というのも、FIER前にコロナ禍があり、在宅勤務が3年ほど続きました。これがちょうどいいFIREの予行演習になったわけです。

 

外部との接点でいうと、家族、仕事のやり取り、Twitterが中心。仕事で飲みにいくこともありますし、オフ会もあります。一人でいるのが嫌いな人ではないのですが、人とコミュニケーションを取るのも好きなので、いまの感じは悪くありません。

何を改善すべきか?

FIREから半年経って、だいぶいろいろな物事のペースが掴めてきました。比較的心地良い状況ではあるのですが、何を改善すべきでしょうか。

 

一つは仕事の削減です。サービス精神旺盛なのか、またはせっかく依頼があったのに断ったら次から話が来なくなると知っているからか、つい引き受けてしまいがち。この量をコントロールしないと、ちょっと困ったことになってしまいます。ある程度のプレゼンスを保ちつつ、時間を取られないバランスを見つけなくてはなりません。

 

2つ目の問題は運動不足です。在宅勤務が始まったころから運動不足が顕著になりました。そういえば最近筋トレも継続できていません。もともとはランニングが好きだったのでうすが、マラソンで無理して膝を痛めてから数キロ以上走るとしんどくなるようになってしまいました。冬はロードバイクはつらいのでプールとかがいいかもしれません。

 

3つ目は読書の減少です。時間があるんだからいくらでも本を読めるだろう? と思っていたのですが、下手に時間があると逆に本は読めないものです。電車に乗っている間とか、スキマ時間でこそ読書ははかどるということを実感します。Kindle中心で紙の本を買うのを減らしていることが影響しているのかもしれません。

 

4つ目は棺桶リストの進捗不足です。FIREしたらやりたいこととして「棺桶リスト(Backet list)」を作ってきました。残りの人生で、実現したいことを書き出して、実行するというものです。金と時間があって体力的にもまだまだ行けるとあれば、なんでもできるだろう? と思いがちですが、実はパッションを持って取り組まないと、何も手つかずのまま時間は過ぎていくものなのです。

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人に求められるか、自分に従うか アーリーリタイアして分かること

リタイアすると、会社員などのくびきから自由になります。これまで会社が規定していたもろもろからも離れ、自分で自分の人生をデザインできるようになるわけです。でも、このときにどう生きるかは、意外と幅があるものです。

人に必要とされて生きるほうが幸せか

きっかけは、誰かのリポストによって流れてきた大江さんのこのポストです。

大江さんは著名な経済コラムニストで、マネーリテラシーの向上に尽くしてきた方です。2024年の年明け早々に、71歳で逝去されました。

 

このポストに対して、ぼくがリポストしたのが下記です。

この2つの考えに、どちらが正しい、どちらが誤っているというのはないでしょう。これは考え方の違いだからです。ただ、なぜ大江さんがこのように考えたのか? それをもう少し深掘りしてみると、根本にある考え方の違いが見えるような気がしました。

『お金の賢い減らし方』で大江さんが語ったこと

そういえばと思って大江さんで検索してみたら、僕も(少なくとも)一冊本を読んでいました。『お金の賢い減らし方』とい1年弱前に出された本です。

この中で、大江さんはFIREブームについて考察しています。

日本でのFIERのブームの背景には、「まず、早く今の仕事を辞めたい、そのためにお金をたくさんこしらえておきたい」という考えがあるようです。すなわち「経済的な自立を指す”FI”よりも「早く引退すること」を表す”RE”のほうに重点が置かれているようなのです。

なるほど、サイドFIREとかバリスタFIREとか、つまりFIには至っていないけどある程度の資産があればREは可能だよね、という考え方がこれなのでしょう。FIには至っていないけど、会社員を辞めて副業で十分食べていけるよね、という方もこのタイプのFIREのように見受けられます。

 

大江さんはREがメインのFIRE人が日本に多い理由を、次のように分析しています。要するに、本当は脱サラして起業したいけど、それは怖いので、数千万円くらい資産があれば、それがサラリーマン卒業のサポートになる。それが日本版FIREではないかというのです。

本来、日本人のDNAの中には「勤労が美徳」という感覚が擦り込まれています。

(略)

にもかかわらず、なぜFIREがブームになるのか、それも”FI”ではなく”RE”が主たる目的のように見える人が多いのはなぜでしょうか。

(略)

その原因をズバリ言えば、今やっている仕事に対する閉塞感があるからではないかと思います。

(略)

もちろん中には、非常に強い意欲を持ち、企業を飛び出し、独立して起業する人もいます。しかしながら、そこまでリスクを取って思い切ったことができる人はごく少数なので、多くの人は早く儲けて会社を辞めたいと考え、FIREに憧れることになります。

とはいえ、大江さんはこうしたREメインのFIREを切って捨てます。

FIREで大事なのは最初の”FI”、すなわち経済的自立であり、仕事が嫌だから早く辞めたいという後ろ向きな考え方ではありません。経済的な自立を可能にすることで、今後の生き方の選択肢が増えるというが本来の意義です。

なるほど、REではなくFIだと。これは僕も同感です。何が正しいFIREなのかは脇において、REなきFIはあり得ても、FIなきREは単なる退職なのです。どちらが優先事項なのかといえば、やはりFIだとぼくは思います。

 

サラリーマンでありながら数億の資産を持った人に、大江さんも何度もインタビューしてきたといいます。そうした人は、現在のところ今の仕事に不満はないけど、将来、不本意な仕事をやらされるようになれば、いつでも辞められるオプションを持っているわけです。

つまり彼らの場合は「お金を増やす」こと自体が目的になっているのではなく、人生において、選択肢を広く持てるようにするための手段の1つとして、資産形成をしているということにすぎないのです。

これは言い方を変えれば、人生で一番大事なことは「自由」だという人生観であり、お金を持っていればいつでも自由にふるまえる、ということを表しています。

ここにぼくは膝を打ちました。まさにこの通り。人生で一番重要なのは自由であり、それを実現するのに最も簡単で、かつ自由のベースになるのが資産なわけです。

 

ところが、REよりFI、FIは自由のため――という論を展開しておきながら、これに対しても大江さんはダメ出しするのです。

私は少なくとも、人生においては「お金が第一で、何よりも優先するものだ」という考え方は間違っていると思います。あくまで自分のやりたいことを実現するために、お金を増やすということなのです。

んー。どこにも「お金が第一で、何よりも優先するものだ」なんて話は出てなくて、自由はお金があれば手に入りやすいよね、という話だったはずなのに、突如”汚いお金”論みたいな話が出てきて、ちょっとこの部分の論旨は僕にはよく読み解けませんでした。この章のタイトルが「FIREに憧れるという勘違い」というものなので、そもそも何かしら否定したかったのかな? と思ったくらいです。

自分の人生をどう動機付けるか

さてFIRE論はさておくとして、冒頭の「人に必要とされて生きるほうが幸せか、好きなことをして暮らす方が幸せか」という問題は、ぼくは自分の人生をどう動機付けるかという問題だと思っています。

 

端的にいえば「あなたは何のために生きていますか?」という問いです。この誰しもが青年期に悩んだであろう青臭い問いは、大抵の場合、周囲が敷いたレールに乗って進学、就職、会社員……と進む中で消えていきます。なぜかというと「人に必要とされて生きる」ほうが簡単だからです。

 

会社の評価制度を見ればよくわかります。人は給与のためだけに働くにあらず。会社や上司から成果を求められ、つまり必要とされて頑張るのです。そして成果を出せば、上司や同僚が認めてくれ、ついでにボーナスもちょっと増えたりします。周囲の期待に応えることも重要です。周囲に必要とされて頑張っている人は、誰しもが評価しますね。上司が評価しなくても、ドラマの主人公になるのはだいたいそういう人です。

 

このように人に必要とされて生きるのは簡単に幸せになれるものです。会社に必要とされるだけでなく、家族に必要とされて「子供のためにがんばっています!」というバリエーションもありますね。

 

ただこうした「人に必要とされて生きる」には自分を求めてくれる相手が必要です。そしてリタイアすると、こうした相手は極端に減ってしまうのです。リタイアすれば、成果を期待して褒めてくれる上司はもういません。助け合って感謝してくれる同僚もいません。子供たちが小さいうちはいいでしょうが、巣立っていったあとにはリタイア済みのあなたを必要とする人はもういないかもしれません。

 

こうした事実が、冒頭の大江さんの発言に繋がっているもではないか? ぼくはそんなふうに感じています。

 

そして「人に必要とされて生きる」には、リタイア後も何らかの仕事を探すことになります。ぼくも細々とフリーランスとして仕事をしているので分かりますが、仕事を受けるというのは最も簡単な「人に必要とされて生きる」方法なのです。

 

ただ一方で、別の生き方もあります。自分の人生を自分で駆動する方法です。それが冒頭でぼくがポストした「自分の好きなこと、やりたいことを軸にしたほうが、健やかに毎日を過ごせる」というものです。

 

「人に必要とされて生きる」場合、人生を評価するのは他人になります。他人が喜んでくれればいい人生、感謝されればいい人生。これは一般的な価値感だし決して悪いことではないのですが、他人の思いに振り回されるということでもあります。

 

一方自分の内なる衝動に従って生きる場合、その人生を評価するのは自分になります。例えば、何日も山にこもって登山する人のことを考えてみましょう。この人はなぜ山に登るのか? これは誰かに必要とされて登っているのではありません。ありきたりな言葉になりますが、そこに山があるから登るのです。

 

座禅を組んで修行する僧侶のことを考えてみましょう。彼は誰かに必要とされて修行をしているわけではありません。自分が決めた評価軸にそって、自分がなすべきことをしているだけです。何が必要で、何を行うべきかは、他人が決めるのではなく自分自身の中にある。こんな生き方が、リタイア後の人生においては重要なんじゃないか。そんなふうに思うのです。

 

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2023年は完全FIREした年でした キャッシュフロー・クワドラントで考える

2023年は、ぼくにとって節目となる年でした。というのも、20数年勤めた会社をついに退職したからです。いわゆる「完全FIRE」した年となりました。

完全FIRE

年齢的な節目もあって、なんとなく2023年には……と考えていたものの、予め設定したタイミングになったから退職したというわけではありません。きっかけとしては、Financial Independent=経済的自立を背景に、やりたくない仕事に対してはNoといえる退職カードを持っていたわけですが、それが実行に至ったという感じです。

 

このブログはセミリタイアの意向を固めた5年前、2018年の春に開設しました。そして秋にはいわゆるキャリアを降りて、セミリタイアに入ったわけです。そこからちょうど5年、今度は退職して完全FIREとなりました。

  • 2018年春 FIREの意思を固める(ブログ開設)
  • 2018年秋 セミリタイア実施
  • 2019年春 年号が令和に
  • 2020年春 緊急事態制限、リモートワークに
  • 2022年秋 社内で異動
  • 2023年春 完全退職申告
  • 2023年秋 退職

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ここにはもちろん、期待と不安があります。お金の問題と生活の問題ですね。ただ、お金の問題については、何度もシミュレーションを重ねたこともあり、実はまったく不安がありませんでした。リスクがあるとすれば、ボラティリティの大きな投資対象に賭けて大きく資産を失うことくらい。固い運用で全く問題ないと考えています。

 

ただFIRE後の生活については、多少なりとも不安はありました。

暇すぎないか?

よく聞かれるのがFIREしたら「暇すぎ」という話です。ただ、ぼくはこれまでの人生で暇すぎて困ったことはなくて、どちらかというと時間がなさすぎて困るほうだったので、これについては全く不安はありませんでした。

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実際にFIRE生活に入ると、「毎日が日曜日」でとっても楽しい。というか、人間これがデフォルトであるべきじゃないか? とさえ思います。誰かに強制された時間の使い方をするのは、人間の本質に背いている。そんなふうにも思います。

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Employee=従業員から卒業するということ

下記は、有名な『金持ち父さん』の「キャッシュフロー・クワドラント」です。これはお金の稼ぎ方の話ではありますが、実は世界観についても表しています。

 

Employee=従業員は、いわゆる会社員です。自分の時間をお金に替えています。そしてそれだけでなく、この4つの中で唯一、自分で物事を決定できません。他人に委ねています。ただし、この4つの中で元手がほとんどいらない唯一の仕事なので、ほぼすべての人はここからキャリアをスタートし、他の4つに移行していきます。

 

Self−Employed=自営業は、自分の時間をお金に替えていることは同じです。ただし自分で物事を決めることができます。自分の主人、自分の上司に自分がなれるのです。

 

よくいわれることですが、自分の処遇を自分で意思決定できることの精神的なメリットは計り知れません。Employeeであっても、出世して企業の上層部に行くに従って意思決定できる範囲が広がります。社長ともなれば、株主から文句はいわれるものの、かなりの裁量を持てます。そして、自分で意思決定できる待遇ならば、人生はかなり楽しいものになるのです。自営業の人で、お金に困っている人はいますが、ウツになるような人は珍しい。それは意思決定できるかどうかが、人としてどれだけ重要かを表しています。

Investor=投資家は、働くことではなくお金がお金を生み出すことで収入を得る人のことです。また、Business Owner=ビジネスは、事業を所有していることを指します。要するに、お金を儲ける仕組みを所有しているわけです。ここでは配下の従業員が、仕組みに従ってお金を稼いでくることが表現されています。

 

ぼくの場合、当初はEmployeeからスタートしました。そこでスキルを身に着けて資金を貯めました。ある程度資金が貯まったら、投資をスタートさせました。駆け出しInvestorの誕生です。そして、セミリタイアを意識し始めたときに法人を用意してBusiness Ownerにもなりました。といっても従業員はおらず、外注を中心とした不動産と太陽光というビジネスですが、これは明らかにビジネスです。

 

そして最後に、Emoployeeを卒業して、身につけたスキルを使ってSelf-Employedとなりました。このEmployeeからの卒業が、僕にとっての完全FIREだったというわけです。

 

世の中には、Employeeのまま出世することが人生のレールだと考える人もいます。しかし、それはあくまで誰かが考えたレールの上を走っているだけなので、楽ではありますが自己決定権はありません。その象徴が定年でしょう。決められた年齢になったら、有無を言わさず待遇を剥奪されるわけですから。

 

一方、Self-Employed、Business Owner、Investerには定年はありません。すべてが自己責任ですが、すべてを自分で決定できます。この自己決定できる自由を持ちたいかどうかが、FIREに向くかどうかを左右しているのではないかという気が、最近しています。

 

なお、一応Self−Employed=自営業の枠にも席を置いていますが、ここでガンガン時間を費やさずとも生活に困らないというのはいいことです。正直、B+IがあるからSも楽しく過ごせるわけで、単にE→Sだとけっこう厳しい毎日になるのではないかとも思っています。

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ぼくはそもそもが楽天的で、何かを後悔するということがほとんどありません。そういう意味では、Employeeから脱却してもお金の面以外はメリットしかないと思っていましたが、まさにその通りでした。

 

何はともあれ、自己決定権を持てること、そしてお金のために時間を使わずに済むこと、さらに嫌な人と一緒にいる必要がないことは、とっても幸せなことだと思うのです。こんなことなら、もっともっと早く完全FIREすればよかった。というのが、この2023年を振り返っての思いでした。

 

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FIRE否定派のロジックに反論してみた

一時期ほどのブームは去ったとはいえ、一定人口に膾炙したFIREという言葉。FIREへの憧れを訴えるコンテンツも多い一方で、「FIERなんてするもんじゃない」という論説も尽きることがありません。

 

今回、元日経新聞編集委員の高井宏章氏が、“FIREで幸せ”の拭えない違和感「危なっかしい」と否定していたので、そのロジックを見つつ反論してみます。

FIER否定のロジック勢ぞろい

高井氏がFIREを否定するロジックを、記事から抜き出して一覧にすると次のようになります。

  • そこそこ高いリターンとカツカツの生活費を前提にしたマネープランは破綻する
  • FIRE失敗時に現役復帰は難しい
  • FIREのための節約生活は豊かな生き方ではない
  • 仕事の目標が「早期リタイア」だと、仕事が「仮の姿」になってしまう
  • 収入を他人の労働に頼る生き方は自立と呼べない

これらはFIRE否定派の人たちが並べるロジックの、見事な一覧になっていると思います。それぞれに対して、FIRE肯定派の立場から反論を試みてみましょう。

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マネープランの破綻とFIRE失敗について

まず「そこそこ高いリターンとカツカツの生活費を前提にしたマネープランは破綻する」「FIRE失敗時に現役復帰は難しい」の2つについて。

 

これは実はFIREを否定しているのではなく、FIRE計画の未熟さを指摘したものです。FIREの良し悪しに関係なく、甘い計画は破綻するのは当たり前です。いわば「1日1時間CDを聞くだけで英語が話せるようになります」というプランはうまくいかないから「英語が話せるようになるのは意味がない」というようなもの。

 

安易なFIREは、失敗すると悲惨になることをちゃんと理解しておこうという警鐘としては意味があるでしょうが、まるでFIRE自体を否定するような文脈にするのは意図的なミスリードのように感じます。

FIREのための節約生活は豊かな生き方ではない?

「FIREのための節約生活は豊かな生き方ではない」はさまざまなFIREのカタチの中で、節約節制型のFIREを指して否定しています。別に、日々の生活でお金を使わないからといって、そういった生き方が貧しいと断ずるのは、それこそ想像力の欠如です。

 

実際に節約節制生活を続けた人が、「これじゃ人生よろしくない」と反省したのならともかく、平均年収が1220万円にもなる日経新聞の出身者が、「お金を使わないと人生は豊かでない」と説いても、そこに説得力はあるでしょうか。

仕事の目標はいったいなにか?

「仕事の目標が「早期リタイア」だと、仕事が「仮の姿」になってしまう」は、うまく書くことで一見説得力を持たせています。引用してみましょう。

キャリア形成の面でも違和感がある。真の目標を早期リタイアに置けば、仕事は引退資金を稼ぐための手段になってしまう。そんな心持ちは、何らかの形で漏れ出て、同僚や取引相手に伝わるだろう。人生の大事な時期を、自分にとっても周囲にとっても「仮の姿」として過ごすのは、私には幸福なあり方とは思えない。

高井氏は、新聞記者という仕事を社会的に意義のある重要な仕事だと考えて過ごしてきたのでしょう。そこには「仕事が嫌でたまらないがお金のために働いている」という人が世の中にはいるということは想像の範疇にありません。お金のことを意識せずに働ける高給取りのエリートのような考え方だと思います。

 

多かれ少なかれ、仕事というのはやりがいや社会への貢献といった要素と、報酬という要素がバランスしているものです。目標を早期リタイアに置くと報酬以外は何も気にしなくなるというのは極論でしょう。早期リタイアという目標に向けてお金を貯める目標を持つと同時に、自分の仕事にやりがいを持ちながら社会に貢献する喜びを噛み締めているものです。

経済的自立とは何か?

最後の「収入を他人の労働に頼る生き方は自立と呼べない」はどういう意味でしょうか。こちらも引用します。

「FIREは果たして経済的自立なのか」という疑問がわく。投資のリターンの源泉は、人々や企業が経済活動を通じて生む新たな富だ。FIREとは、元本=ストックは自分自身の物でも、フロー=収入は他人に頼る生き方だ。そのあり方が悪いと言いたいのではない。それは自立と呼べるのか、と問いたい。

なるほど、自分自身で働いて稼ぐのは自立だが、資本を元に収入を得るのは自立ではないと言っているわけです。僕からは3つの反論をしたいと思います。

 

まず資本主義の世の中にあって、投資家が資本を提供することの意味をどう捉えていますか? ということ。人々や企業が経済活動を通じて富を生むには労働者だけでは足りません。そこには資本が必要なのは、マルクス主義者でもなければ常識でしょう。

 

2つ目は、投資は本当に不労所得なのか? という点です。投資家はどこにどんな形で資本を提供するのが良いか、調査して考えて投資を行っています。これを「他人に頼る」などとあたかも不労所得のような言い方をしては、ファンドマネージャーなどの仕事もすべて否定することになってしまいます。投信に投資すれば、そんな判断を外部に委ねられる。それは不労所得ではないか? という反論には、経営者も優秀なCOOを雇えば、実務も判断も任せられる。それと何が違うのですか? と返したい。

 

そして3つ目は、そもそも経済的自立とは何かということです。僕の理解では経済的自立とは「他人や外部の支援に頼らず生計を立てる能力」を指します。自身が労働しようと資産からの収入であろうと、自分が所有する財や能力によって生きていけるのなら、それは経済的自立です。それをあたかも「労働以外は正しい収入のあり方ではない」と感じさせるような書き方をするのは、意図的なミスリードでしょう。

 

このように、ロジックを見ていくといろいろなところで破綻していて、文章のうまさで印象論操作をしている感が拭えません。日経新聞出身という高収入かつやりがいのある(と本人が思っている)仕事をずっとやってきた人間の奢りが出ている内容ではないでしょうか。

ポジションを取る

さて書いてみたら、なんか激しい批判文みたいになってしまったので、僕も自分のポジションを明確にしておきたいと思います。

 

まず楽観に基づいた甘いプランに基づいてFIREするのは、僕も反対です。株式は歴史的に平均6%程度のリターンをもたらしてきましたが、30年にもわたり停滞した時期もあります。FIRE後に、大恐慌とか日本のバブル崩壊のような長期低迷があっても大丈夫なプランを組み立てずにFIREしてはいけません。

 

FIREのために節約すると日々使えるお金は少なくなります。これを一概に貧しいとはいいませんが、若いうちのほうがお金の価値が大きくなるのも事実です。つまり、若いうちのほうがお金を使うことで、人生の満足度が高まるのです。そのため、個人的には過度に節制してまでFIREしたいとは思いません。

 

仕事の目標は金ではないというのは、ぼくは同意します。そしてだからこそ、さっさとFIREして、金のためではない仕事をすればいいというのが僕の考えです。

 

経済的自立については、労働の神聖性をぼくは認めていません。バートランド・ラッセルの次の言葉を贈って、この記事を締めたいと思います。

 勤労のモラルは奴隷のモラルである。そして、現代社会に奴隷は必要ない。 バートランド・ラッセル『怠惰称賛』

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FIREすると会社員時代より病気が怖くなるのか?


ダイヤモンド・オンラインに「FIRE達成者が実践した『意外なデメリット』とは?」という記事が載っています。実際にFIREした方々が本音で語っていて、ふむふむという感じなのですが、ほほーと面白く思った点もありました。

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FIREすると会社員時代より病気が怖くなるのか?

あれ?と思ったのは、次のくだりです。

寺澤:デメリットとまではいきませんが、怖さを感じた出来事がありましたね。この前、中指の骨を剥離骨折したんです。

 今回は指だったから良かったものの、もし重傷を負って動けなくなったりすると、生活していく上でかなり困るなと危機感を覚えました…。FIREをすると、ケガをしたときに会社が守ってくれなくなるので、動けなくなる事態は避けたいんです。

会社員のときは怪我や病気になっても有給休暇があって、働かなくても収入を得られます。また健康組合や協会けんぽには、働けなくなったときの傷病手当金という制度がありますが、国民健康保険の場合には基本的にありません*1。つまり、会社員はいろいろ保障があるけど、退職してFIREすると保障がなくなる……という話です。

 

でもあれ? FIERって金銭的に自立していて、つまり会社に頼らなくても資産からの収入で暮らせていけるのではないの? 別に自分が病気になろうが怪我をしようが寝たきりだろうが、資産から収入が入ってくるんじゃなかったの?

 

そう思ってよくよく読むと、この方はFIREといっても「サイドFIRE」だということで、資産もあるものの執筆活動をして暮らしているということでした。なるほど。

 

つまり一口にFIREといっても、「◯◯FIRE」の場合は必ずしも資産からの収入で生きていけるわけではないということですね。

脱サラ独立とFIREの違いとは?

さてそうなると、脱サラして独立するのとFIREの違いとは何でしょうか。一つには、それなりの資産額があることでしょう。サイドFIREと言いながら、毎月せっせと働かないと生活できない=資産からの収入が大してないなら、それは自己マーケティングのためのキーワードとしてのFIREじゃないかと見られても仕方ありません。

 

ぼく自身は、FIREしたからといって働くことを否定するものではないし、実際に仕事を受けることもあります。でも重要なのは、お金のために働くのではなく、面白そうな仕事だけするという点だと思っています。

 

資産からの収入があるので、まったく働かなくてもお金的には問題ありません。でも楽しそうな仕事についてはやっぱりやってしまいます。そしてそこにはやはり報酬が発生してしまいます。創造的なアクションを社会の中で実行する場合、金銭の授受が発生するのが慣習だからです。企業からの依頼を無償で受けるのは、実は意外とハードルが高かったりします。

 

ハンチバックの主人公、釈華は、親からの莫大な遺産を受け継ぎながら、ネットライターの仕事もしています。ただそれは社会とのつながりを持つためで、受け取った報酬はすべて寄付してしまいます。ここまでいけば「金のために仕事してるんじゃないんだよ」と言えるでしょうが、残念ながらぼくはまだその域には達していません。精進しないと。

FIREすると収入に不安があるのか?

FIREしても病気が怖いのは、実はマインドの問題もあるかなと思っています。ぼくは、これだけ=年間生活費の37倍の資産があれば、まったく働かなくても困らないだろうと思って完全FIREしましたが、この額で十分だと思うか不安に思うのはひとそれぞれ。マインドの問題です。

 

もし同じような生活費と資産額の人でも、不安を感じるなら稼ぐための仕事を辞められないでしょう。これは10億円あっても100億円あっても不安な人は不安だという話です。

 

さらにポートフォリオと市況も不安に影響します。この10年ほどは株式市況がとてもよく、リーマンショック以後はまともな景気後退がありませんでした。そのため、この期間に資産を築いた人は資産が大きく減る、そして戻らないという経験をしていない場合があります。

 

いざ景気後退が来て資産額が半分になり、さらに1年、2年と減り続けた場合、不安が長じて仕事に復帰したくなってしまう人もいるでしょう。これはまさにマインドの問題で、資産額の多寡ではないと思っています。

 

ポートフォリオも同様です。理論的にはFIREしたからといってインカム重視のポートフォリオにする必要はありません。株式インデックス100%の投信で、必要に応じて取り崩しだっていいはずです。でも、マインド的には定期的に安定したキャッシュが入ってくるほうが不安がないという人もいるでしょう。

でも不安な人がFIREするのか?

FIREしたら働かなくても大丈夫なはずだけど、マインド的に不安になっちゃって働いてしまう。だから怪我したりすることに不安を感じてしまうのでは? と考えてみました。でもそんなふうに不安を感じる人が、果たしてFIREするのか? という疑問もあります。

 

そんなにいろいろな不安を感じるなら、FIREなんかしないで安定して守られた企業の中で、淡々と働いたほうがいいんじゃないか? ということです。なぜ資産からの収入だけでは不安なのにFIREしたのか? これが最も聞きたい内容です。

 

*1:ちなみに、FIREしても自分で会社を作ってそこから給与をもらうようにすれば、協会けんぽにも加入できるので傷病手当を受け取ることも可能です。まぁ給料の額を増やさないとあまり意味がないのですけど。

死ぬまで資産が増え続けるのは日本だけ ライフサイクル仮説とは?

株クラで話題の一冊『DIE WITH ZERO』では、死ぬまでに資産を使い切ろう!と主張するわけですが、実際には多くの日本人が死ぬときまで多額の資産を抱えたままです。じゃあ、海外の各国はどうなの? というと、実は違いました。そんなデータから、今回は「ライフサイクル仮説」について考えてみます。

死ぬ直前まで資産が増え続ける日本人

まずはこのデータを見てみましょう。日本人は50歳よりも60歳、60歳よりも70歳以上と年をとるにつれて資産額が増えていきます。70歳以上で実に平均5960万円。中央値はもっと低いという話もありますが、ここで注目したいのは、退職したあとも資産が増え続けていることです。

一方でイギリスを見ると、退職する年齢である55〜65歳をピークに、そこからは資産額が減り続けます。

 

これってイギリスが変なんじゃないの? いえ、ドイツやスウェーデン、フランス、アメリカの例を見ても、多少の年齢のズレはあるにせよどの国でも死ぬ前のどこかで資産額のピークがきて、死ぬ直前には資産が減少しています。

なぜ日本人だけ資産が死ぬまで増え続けるのか?

これらのグラフは下記の『教養としての社会保障』からとったものです。著者は元厚生労働省の官僚で、日本の社会保障の現状と課題、そして未来への提言を述べています。

教養としての社会保障
 
 

著者は、「なぜ日本人だけが資産が死ぬまで増え続けるのか?」について次のように分析しています。

世界で唯一、日本人だけが死ぬまで貯蓄を増やし続けています。もちろん高齢者の貯蓄には遺産動機もありますし、中には資産運用で稼いでいる人もいるでしょうが、貯蓄をする理由を聞くと、「将来病気になったり介護が必要になったときのため」「年金だけでは暮らせない」といった社会保障への不安を挙げる回答が多い。大半は、爪に火を点すように生活を切り詰めて年金を貯めているとしか考えられません。

そうなのです。「老後2000万円問題」とか「年金は破綻する」説とか「人生100年時代」とか、いずれも老後不安を煽る内容ばかり。そうすると、客観的には十分な資産があるのに、それでも倹約を重ねて重ねて、引退後もさらに貯蓄を増やしてしまうのです。

 

これは高齢者本人にとっても幸せなことではないですし、経済にとっても悪影響があります。人口の3分の1を占める高齢者が十分な消費をしなければ内需が伸びるはずもありません。つまり、勤労世帯の給料も上がるはずがないのです。

 

そうしたことから、厚生労働省官僚だった著者は、日本の社会保障を守るためにも高齢者には支出を増やしてもらうべきで、そのためには年金制度を改革して将来不安を取り除かなくてはいけないというわけです。

ライフサイクル仮説

さて、日本の現状はバグっていますが、世界各国では引退時の資産が最大で、そこから徐々に資産が減っていきます。なぜこうなるかの理由としては「ライフサイクル仮説」というものがあります。

 

ライフサイクル仮説とは、生涯の所得生涯の消費が釣り合うように、人は消費行動を決定するという考え方です。つまり、一生涯で3億円を稼ぐのなら、一生涯で3億円を消費するということです。

これは当たり前と思うかもしれません。しかし、そうであるなら22歳〜65歳までの43年間にほぼ一生涯分の所得を稼いで、それを0〜85歳(平均寿命)の期間で消費することになります。当然、65歳まで貯蓄が積み上がり、その後はそれを取崩して老後を過ごす形です。

 

このライフサイクル仮説をもとにすると、退職時の貯蓄は死ぬまでの消費分だけあればいいことになります。その前提で計算すると、必要な貯蓄額が出てくるわけですが、日本では、

退職後の最適資産水準よりも、実際の資産額は1.4〜1.6倍になっている。

教養としての社会保障

 

というのです。年金保険は「保険」の名前の通り「長生き保険」です。決して積み立てた貯金を取り崩すようなものではありません。なので、想定以上に長生きしてしまっても、年金があれば大丈夫というのが本来あるべき姿です。年金が理念通りに働くなら、定年後、貯蓄が増えるなんてことはなくて、死に向かってどんどん減っていくはず。そうなっていないのが、日本の社会保障の病理だということです。

 

 

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FIRE後の老後資金不安を軽減する年金戦略

今日は久々にFIRE、セミリタイアネタを。FIREを目指すにあたって最も悩み心配するのは、果たして死ぬまで資金が持つか? でしょう。それに年金を組み合わせることで、無駄に多くの資産を構築せずに済む方法を考えます。

前提となる考え方

FIREの基本概念は、資産を構築して働かなくても生きていける状態を達成(FI)し、働くかどうかを自由に選択できる(RE)ようになることです。そのためには、資産からの収入だけで食べていけることが必要です。

 

ではどれくらいの資産があれば、働かなくても生きていけるのでしょうか。重要な変数は「生活費の額」と「運用リターン」です。生活費が多ければ多いだけ資産額も必要になりますし、運用リターンが高いほど必要な資産額は小さくなります。

 

ただし運用リターンをコントロールすることはおすすめできません。運用リターンを高めようとすると(高めようと思って高められる人であっても)、代わりにボラティリティ(リスク、価格変動率)が増加します。統計的にいうと、複利運用を行っていく中では、ボラティリティが増加すると平均値よりも最頻値や中央値は下がります。つまり、期待したほどのリターンが出ない可能性が高まるということです。

 

そこで過去データを元に、このくらいの運用リターンなら無理なく可能で、死ぬまで資産が持つ……という研究がされてきました。最も有名なのがトリニティ大学で行われた「トリニティ・スタディ」です。ここでは、過去の運用データを元に、取り崩し率が4%ならば、100回に98回は死ぬまで資産が持つことが示されています。

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取り崩し率4%というのは、最初の資産額の4%の額を、毎年ずっと取り崩すという意味です。取り崩し額=生活費だと考えると、最初の資産が生活費の25倍あれば、死ぬまで資産が持つわけです*1

日本には年金がある

ただし、ここには年金が考慮されていません。日本には公的年金という制度があり、これは死ぬまで受給できるという、長生き保険的な意味合いを持っています。年金が破綻するとか、年金制度が減額になるという話は以前からありますが、まずはそれをおいておいて、現在と同じように継続できる前提で考えてみます。

 

通常年金は65歳からの受給ですが、これを繰上げたり繰下げたりできます。繰上げて60歳からもらうと、月額が約24%減少します。逆に繰下げて75歳からもらうと84%増加します。

 

繰り下げると額が増えますが、早死して受給額が減る可能性があります。平均寿命で考えると、何歳からもらうのがよいか? という観点もあって、以前それを試算した記事を書きました。

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しかし、本来年金というのは保険です。正式名称が「年金保険」であることからもわかるように、長生きというリスクに対する保険なのです。そこで、本来の長生きリスク対策として考えてみましょう。

長生きリスクを年金でカバーする

FIREにしても老後資金にしても、最も怖いのは死ぬ前に資産が尽きてしまうことです。最も確実なのは、資産を取り崩さず、資産から生まれるお金だけで生活することですが、それにはものすごい額が必要になります。一方、取り崩していくとなると市況状況だけでなく、確率計算上も、「30年はもつけど40年は厳しい」なんて数字が出てきます。

 

多くの場合「まぁ100歳まで生きると見積もれば大丈夫だろう」とエイヤで考えて、残りの年数を算出します。いま50歳ならば残り50年という感じです。このとき、資産の4%に当たる額(資産1億円なら400万円)を毎年取り崩していくとどうなるでしょうか。

 

米国株50%、米長期債50%のポートフォリオで、インフレを考慮しつつ、過去データを元にしたモンテカルロ・シミュレーションを行うと、50年後も資産が残っている確率(Success)は76.65%になります。

これは決して危険な賭けではなく、中央値(50th Percentile)では50年後、資産がゼロになるどころか約1.5倍に増加しています。それでも、失敗確率が25%近くあるということです。

 

同じ条件で取り崩し比率を減らしたら、成功確率はどうなるでしょうか。最後の倍率は、取り崩し額の何倍の資産が必要かという倍率です。つまり成功確率を97%までもっていきたいなら、確率的には年間生活費の40倍まで資産を貯めなくてはならないということです。

  • 5%  52.64% 20倍
  • 4.5% 64.44% 22.2倍
  • 4%  76.65% 25倍
  • 3.5% 85.99% 28.5倍
  • 3%  92.57% 33.3倍
  • 2.5% 97.13%  40倍

 

でも、例えば「資産で生きるのは75歳まででOK」と予め分かっていたらどうでしょう? 今50歳なら残りはあと25年間でいいとなったら? このように、4.5%の取り崩しでも成功確率は90%以上に跳ね上がるのです。

  • 5%  85.64% 20倍
  • 4.5% 92.17% 22.2倍
  • 4%  95.96% 25倍
  • 3.5% 98.41% 28.5倍
  • 3%  99.55% 33.3倍
  • 2.5% 99.86%  40倍

グラフにするとこんな感じ。資産寿命を50年もたそうと思うと成功確率を90%以上にするには年間生活費の33.3倍の資産が必要ですが、25年間でよければ22.2倍で済むのです。

そう、年金を限界まで繰下げ支給にして額を増やし、本当の長生きリスクは年金でカバーする。そして、年金受給までは手持ちの資産を活用していく。この方法なら、そこまで巨額の資産を貯めなくても大丈夫となるのです。これぞ、長生き保険としての年金の最適な活用法ではないでしょうか。

反論を考えてみる

年金受給を75歳まで繰り下げて、そこまで資産の取り崩しで生活し、75歳以降は年金ですごす。この方法に対して、どんな反論があるでしょう。

 

一つは、75歳になったときに年金がもらえなくなっているかもしれないのに資産がなくなってしまうのは不安というものでしょう。ここには2つの仮定があります。1つは年金は本当にもらえなくなるのか? ということ。そして2つ目は、75歳のときに資産はなくなっているのか? ということです。

 

1つ目は政治的な話であり、確率的に議論できるものではありません。なのでこの考察はまた別の機会に。

 

そして2つ目です。成功確率が90%だといっても、その時資産がゼロになっているわけではないのです。下記は、25年間4.5%に当たる額を取り崩し続けたときの資産額の推移です。下位10%(10th Percentile)ではたしかに資産額が当初よりも減少してしまっていますが、下位20%よりも上では資産は減るどころか増加しています。中央値にあたる50th Percentileでは2.8倍に増加しているのです。

25年後の成功確率が9割以上になるレベルの取り崩しを行ったとしても、ほとんどの場合、資産はぐんぐん増加しているのです。

 

つまり、75歳以降は84%増しの年金があるからそれでなんとかなるだろうと思えれば、4割少ない資産でなんとかなります。そしてそれはあくまで万が一の保険であって、ほとんどの場合は資産が75歳のときに尽きているなんてこともないのです。

 

※本当は、年金を65歳からもらう場合と75歳からにした場合で、必要資産額と成功確率がどう変わるかを検証したかったのですが、今回はざっくりとした概念の話で。そのうち、計算もしてみたいと思います。

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*1:よくある誤った説明のように「4%で運用すれば永遠に資産が減らない」という意味ではないことには注意です。

FIREの難易度は高いか低いか

そういえば、セミリタイヤブログなのにFIREのことを最近書いてないなぁーと思い、今日は「FIREの難易度について」考えてみたいと思います。

 

まずFIREって何? ということを定義しないと、難易度云々も語れません。RE=Retirement Earlyはまぁ仕事を辞めればいいだけなので、重要なのはFI=Financial Independentでしょう。ところが、FIも生活レベルによって明確な答えがなかったりします。月間10万円で暮らせる人なら4000万円もあればなんとかなりそうですし、月間100万円必要なら4億くらいはほしいところです。

 

というわけで、ここでは便宜的に1億〜2億の純資産を作ることの難易度について考えてみようと思います。

生涯賃金

投資に一攫千金を夢見る人はこの記事では対象にしません。あくまで統計的にロジックをもってFIREできるかどうかを考えます。資産を作るにあたって、種銭となるのは当然ながら労働収入です。では、人はどのくらいの給料を得るのでしょうか。

労働政策研究・研修機構のレポートによると、男性・大卒・大企業の平均生涯賃金は3億1480万円だそうです。ここに退職金が加わります。ざっくり年平均に均すと828万円ですが、当然若い時は安く、50歳前後がピークになると思われますので、ここもざっくりこのような賃金を得ていると考えてみましょう。

  • 22歳〜30歳 6000万円
  • 31歳〜40歳 7000万円
  • 41歳〜50歳 8500万円
  • 51歳〜60歳 1億円

40歳でFIREするなら1億3000万円を種銭として、50歳なら2億1500万円で、純資産を作るという感じですね。40歳とか50歳で退職した場合、退職金はあまり期待できない前提です。

 

ただし、この金額がまるまる手元に残るわけではありません。税金と社会保障費が取られるからです。財務省のデータによると、令和4年(2022年)の国民負担率は、税負担が27.8%、社会保障負担が18.7%、合わせて46.5%です。これは徐々に重くなってきていて、平成元年(1989年)は37.9%でした(税負担の内訳は、資産課税、消費税、法人所得税、個人所得税。うち、手取り云々という話では、個人所得税だけのほうが正確でした。ご指摘いただきました! 財務省データの個人所得課税負担は8.2%くらいですが、これは平均で、年収1000万近い人の場合、27.8%近い所得税+住民税を払っていることになるので、計算はこのままにさせてください)。

 

これを引いた残りがざっくり手取りというわけです。実際は、先のような収入を得ている人は高年収ですから、累進課税でより手取りが減ります。でもここでは平均値で計算してみましょう。

  • 40歳FIRE 1億3000万 手取り6955万
  • 50歳FIRE 2億1500万 手取り億1502万

なるほどなるほど。年間の手取りに直すと平均で、下記のようになります。

  • 40歳FIRE 386万円 32.2/月
  • 50歳FIRE 411万円 34.2/月

あれあれ。けっこう厳しいですね。大卒・大企業勤務でも、手取りに直すとこんな感じになってしまいます。

資産を運用する

では下記の手取りを元に、資産運用して1億なり2億の資産を作ってみましょう。

  • 40歳FIRE 18年間 32.2/月
  • 50歳FIRE 28年間 34.2/月

まず、手取りの半分を運用に回してみます。ここでは金融庁の資産運用シミュレーションを使いました。40歳FIREの場合で月16万円を年率4%で運用するとどうなるでしょうか? 素晴らしい!5000万円を超えました! でもFIREには全然足りませんね。

50歳FIREの場合はどうでしょう? 今度は17万円を年率4%、28年間運用できます。お、今度は1億円を超えました。おめでとうございます! でも1億〜2億という目標に対しては下限でしかありません。

では、40歳FIREで1億、50歳FIREで2億に行くにはどうしたらいいでしょうか?

積立額を増やす

まず積立額を増やしてみましょう。40歳FIREで、18年間で1億円を作るには、毎月32万円を積み立てればOKでした。でもあれ? 手取りは32.2万円ですよね。これは子供部屋おじさんでないと難しいですね。

50歳で2億を作るにはどうでしょう? はい。こちらは33万円を積み立てると、ちょうど2億になりました。平均手取りは34.2万だったので、自立した生活は不可能です。こちらも子供部屋おじさん向けプランです。

利回りを上げる

40歳とか50歳でFIREするには、収入のほぼすべてを積立に回さないとダメなことが分かりました。ならば今度は利回りを上げてみます。4%なんて数字じゃなくて、株式の平均リターンといわれる6%で回してみましょう。税金なんてゼロです。だってシンNISAでは非課税なんですから。

 

改めて、40歳FIRE・16万円積立・6%の結果はというと、6197万円でした。老後資金には十分ですが、FIREには足りるとはちょっと思えませんね。1億を超えるには26万円の積立が必要でした。

 

50歳FIRE・17万円積立・6%はどうかというと、1億4766万円に。お、悪くないですね。でも2億の壁はきつくて、23万円の積立が必要でした。11万円くらいで生活を続ける必要がありますね。

いやいや、6%はあくまで平均で、オレは株で成功するんだ!という天才投資家ならなんとかなるかもしれません。40歳FIRE・16万円積立で、1億に到達するには年平均どのくらいの利回りで運用できればいいのでしょうか? それを計算するとだいたい11%となりました。なるほど。

50歳FIRE・17万円積立で2億円に到達するには、8%の利回りでOKです。

手取りの半分を積立に回すなんて嫌だ。投資に回せるのは多くても月10万だ。こういう場合はどうでしょう? 夢は大きく2億円! まずはこれを40歳でFIRE(つまり18年運用)で達成します。はい。これは利回り20%でOKです。バフェットよりは低いですね。

50歳FIREならどうでしょうか。つまり28年運用となりますが、これなら10.5%の利回りで2億に到達しました。

これならできるとお思いでしょうか?

九条の場合

さて、九条の場合はどうだったかを、サンプルとして載せておきます。新卒の頃から投資に目覚めていたわけではなく、ぼくがちゃんと投資を始めたのは2006年から。リーマンショックのちょっと前という、なかなかに微妙なタイミングからでした。もちろん、そこまでに頑張って貯蓄をしてきています。そこからどう資産が増えていったかというと、下記のようになります*1。赤い部分はストック・オプションの累計です。

リーマンショック時は運用益がマイナスでしたが、その後資産が増加していったことが分かります。この17年間の運用利回りを平均(幾何平均)で出すと、10.6%でした。S&P500の配当再投資後のCAGRが8.91%ですので、これに勝っているのは、ちょっとした自慢です。

また22年末時点で資産の約35%は、貯蓄やSOといった運用以外で形成した資産になります。こうした入金力も加味したリターン、いわゆるインベスターリターンは年平均20.6%でした。20.6%のペースで資産が増加してきたということです。

果たしてFIREの難易度は?

夢がないといえばそれまでですが、シミュレーションと自分の場合を振り返ると、FIREには入金力と運用力が必要です。そして入金力は、高収入と貯蓄率の高さに分解されます。つまり、高い収入を得て、その多くを貯蓄(運用)に回し、高リターンで運用する力が必要です。

 

その上で、大卒大企業の平均収入・手取りの半分を運用・11%運用を新卒から続ければ、40歳時点で1億に達します。平均より収入が多いか、半分以上を運用に回すか、11%以上の運用をするか、40歳よりもFIREを遅らせれば条件は緩やかになります。

 

ぼくの場合でいえば、平均年収よりは上だったといえるでしょう。さらにSOという特大ボーナスもありました。代わりに手取りの半分はさすがに運用には回せませんでした。運用は約11%で回ってきました。そして運用を始めたのが遅かったため、FIREも40歳よりは少し遅れたという感じです。

 

さて、運用の平均リターンを10%に乗せるのはそんなに簡単ではありません。ミンカブの投資信託利回りランキングを見ると、直近10年の平均で利回りが10%を超えるのは、全1514本注271本に過ぎません。上位17.8%です。これを「ならいける!」と見るか「難しい」と見るかは人それぞれではあります。

 

やはり難易度に最も影響するのは、収入と貯蓄率でしょう。個人的には、高い運用リターンを出すよりも、収入を上げるほうが簡単ですし、貯蓄率を高める=少ないコストで生活するのはもっと簡単です。そして高い収入を得るという意味では、高給の大企業に入るか、専門的な資格を取るか、起業するか、SOがもらえるようなベンチャーにトライするのが、一つのやり方です。

 

またもし投資で一発当てるのなら、実はこの10年くらいは仮想通貨を持ち続けるというのが、最もポピュラーな手法でした。またベンチャー企業を立ち上げるだけでなく、YouTuberなどネット情報系の起業も、多くの富裕層を生み出しました。こちらの『日本のシン富裕層』にも書いてありますが、ぼくの実感でも周りを見るとそんな感じです。

 

ここまで書いてみて、果たしてFIREの難易度は高いのか低いのか、自分でもよくわからなくなりました。この最後のパラグラフを読んで、「そりゃ無理だ」と思ったなら難易度は高いと思います。逆に「それなら自分にもできる」と思った人にとっては難易度は低いのでしょう。

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*1:注:2006年時点の資産は全額運用益として計算しています

FIREとは「降りる」こと

先週、「FIREとは降りること」というのが、Twitterの一部FIRE界隈で話題になりました。これ、FIRE済みの人は「確かに!」と思う一方で、未FIREの人は「なにそれ?」と感じる内容ではないでしょうか。

登り続ける、増やし続ける競争としての人生

「降りる」とは何か。その前に、よく言われる普通の人生について考えてみましょう。

 

学生であれば、もっと勉強してもっと成績を上げ、少しでも良い学校に入る。社会人になれば、少しでもスキルを磨いて成果を上げ、会社に貢献し、人よりも出世する。起業したなら、前年よりも着実にまたは大きく売上を伸ばし利益を増加させて、大きな企業にする。金儲けではない視点で見ても、もっと効率化して少しでも多くの人を幸せにしよう、世の中に貢献しよう。自分自身についても、もっと資産を貯めよう、投資してお金を増やそう。

 

こんなふうに思う人が多いのではないでしょうか。まぁこれが普通ですよね。学校でもビジネス書でも、成功者のセミナーでも、こういう人生を目指せ、もっと頑張れ、と言われるのですから。

 

ただこうした価値観のレールに沿って頑張って頑張っていく中で、ある日気づきます。早い人は結構早くから、遅い人は40代、50代になってから。もう限界だ……と。

 

人との競争はまだいいですね。問題は自分との競争です。とにかく成長し続けなければならない。昨日の自分に勝ち続けなくてはいけない。資産は増やし続けなければいけない。これが成長のプロセスだという人もいます。常に成長し続けることが重要だと。でも、成長し続けてどうするのでしょう。その先には何があるのでしょうか。

はい。おつかれさん。もう成長しなくていいよ

「もっと成長しろ」「もっと数字を増やせ」。実は一番こう言ってくるのは会社だったりします。株式会社は成長が根幹にあり、そのために社員にも常に成長を求めます。売上と利益は伸びて当然、同じように社員のスキルも上がって当然なのです。

 

でも人の幸せと成長は、必ずしも一致しません。業務に特化して効率を上げ成長して成長して、会社にとっては有能で有用な人物になったとしましょう。でも、その時自分自身は幸せでしょうか。

 

会社に求められ、業績を上げ続けることに満足している。幸福だ。そういう気持ちもあるかもしれないですね。でも、それは60歳なり65歳を迎え、定年となると一気に逆転します。あれ? 自分は会社に求められているんじゃなかったの? 年齢が60になったらもう必要ないって言われるの?

 

60歳の定年まで待たなくても、45歳くらいから役職定年を迎える人は出てきます。これを会社から「もうあなたはいらないよ」と言われているように感じる人も多い。

 

成長するのはいいとしても、その基準を外部に求めると、ある日突然はしごをはずされるのです。

敷かれたレールで競争する人生を「降りる」

多かれ少なかれ、こうした経験をしてくると、人生のどこかのタイミングで、「もう競争するのをやめよう」と思う人が出てきます。会社や他人の期待のために働くのをやめて、自分がやりたいことをやろう。そう思うわけです。

 

別の言い方をすれば、これは自由を手に入れるということだし、口の悪い人は「単に仕事が嫌で逃げ出しているだけじゃん」ともいいます。言い方はいろいろあって、それが間違っているとは思いません。でも、重要なのはそうした基準とは違うところに身を置き、「降りた」ということです。

 

いってみれば「隠居」のイメージが最も近いのかもしれません。そういう意味では、リタイアという言葉も近い。早期退職というより、セミリタイアなのです。

 

そこに必要なのは心の持ちようであって、資産額ではないと思っています。ただ、降りるだけの競争をしてきた人は、意外と収入が多かった人が多い。そして、降りようなんて思う人はちょっと変わり者で、そういう人は見栄を張りません。見栄を張るなら、どこどこの会社のこういう役職――という社会的地位を自ら捨てるなんてことはないのですから。つまり、見栄のために金を使わない傾向にあって、資産が貯まる傾向にあるんじゃないかと思っています。

 

別の言い方をすれば、資産があるから「降りる」という選択肢が現実のものになったともいえます。

 

そんなわけで、FIREとは「降りる」ことだという点について、ちょっと考えてみました。

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日本の「シン富裕層」 5つのタイプとその特徴

なるほど!と膝を打つ本を読みました。従来とは違う、「シン富裕層」が2017年頃から増加しているとし、彼らがどのようにして資産を築き、どんな行動をしているのかを紹介した本です。

40代がメインのシン富裕層

著者はシン富裕層をメインに海外移住のコンサルティングを行っている人物です。これまで2万人を超える富裕層から相談を受けてきたといいます。2017年以降生まれたシン富裕層のメインは40代。次に50代、30代が来て、わずかに20代もいるといいます。シニア層が多かった昔の富裕層とは年代が違うのです。

 

高級車、高級時計、オーダーメイドのスーツ……少し前なら一点豪華主義であっても見分けがつくようなわかりやすい記号を持っていたかもしれません。しかし「シン富裕層」はたとえがいいかどうかはわかりませんが、エリートビジネスマンどころかそのへんにいる学生のようでもあり、街中ですれ違ったとしても「リッチ感」のオーラはゼロと言っていいでしょう。

ボトムスはたいていスウェットパンツ。ジーンズでもコットンパンツでも、ましてスラックスでもありません。さらに高級ブランドのスウェットパンツでもなく、ユニクロなのです。ブランド物の時計やバッグももちません。

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自宅についても投資と考えている人が多く、子供の住環境重視で贅沢目的ではありません。恋愛や友人関係も、お金を持ったからといって変わることがなく、従来同様。

 

こんな、よく隣にいるような人が現代のシン富裕層なわけです。

 

そしてそのタイプは資産構築の方法によって5つに分けられるといいます。

ビジネスオーナー型

一つはいわゆる起業家です。よくも悪くも昔からあるタイプで、欲求も比較的オールドスタイル。

ビジネスオーナーは、「シン富裕層」の中ではある意味昔からいるタイプともいえるでしょう。他のシン富裕層のタイプと比べて、成功や欲望に強い関心をもつ人が多いです。いいモノを買う、いいサービスを受ける、いい家に住むなどの欲求が原動力になっている方が多いです。不動産投資に積極的なのも特徴です。目に見えるモノを好む傾向はもっとも顕著かもしれません。

ただ古くからの起業家と違うのは、事業を生み出すことに特化していて大きくすることにあまり興味を持たないことでしょうか。このあたりは、たしかに最近こういう人が多いなぁと感じます。

それはつくった会社を巨大化し続けるというベクトルではなく、アメーバのように新規事業を多角的に手がけるという点にあります。既存のビジネスは人に任せてフットワーク軽く新しい分野を開拓していく、という起業に特化するタイプ。

資本投下型

2つめは、高い給与を元手に、GAFA投資で当てたり、自宅の値上がり益で資産を作るパターン。SNSの投資アカの一部は、このパターンの人が多いですね。

 

さらにこの中で多いのが、自宅投資型だそうです。都心の高級マンションを買って、値上がりとともに売却し、さらに高いグレードのマンションを買うことで資産が膨張していく手法です。「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」があるため、キャピタルゲインを無税で取得できるのです。

 

さらに低金利+ペアローンの増加もあって、1億円くらいのローンを簡単に組める環境だったことも追い風となりました。

ネット情報ビジネス型

昨今勢いがあるのが、情報商材やYouTuberなどのネット情報ビジネスだそうです。いわゆるファーストペンギンです。情報収集にお金をかけて、ビジネスを一人から少人数で行い、外注をうまく使ったマイクロビジネスをしています。フットワークが軽いことが特徴です。

 

資格を取って安定した仕事を目指すような人も、最近ではこのジャンルに参入してきています。情報商材というといかがわしいイメージをぼくなんかはまだ持ってしまうのですが、いろいろな意味で急成長ビジネスだということですね。

彼は割り切っていて、「税理士の仕事では高収入は得られない。でも税理士という国家資格を持っていると世間的に信用が増すので、そのために資格を取った」と言っていました。「税理士資格を持っている人が書いたノウハウ本」というブランド力で、情報商材を売っているということです。

暗号資産ドリーム型

4つ目が仮想通貨持ちです。数億から数百億円規模も多いそうです。特徴は、何百倍、何千倍と高騰しても、持ち続ける忍耐力がある人。メンターがいる人と、自分で考えて決断できる人に分かれます。

 

仮想通貨を「買ったことがある」人はかなり多いのですが、そのほとんどが2倍からいっても10倍で「利確」してしまっています。それを100倍、1000倍になってもホールドし続けられる人だけが、暗号資産一本でシン富裕層になっているのです。

 

勧誘されるほとんどの投資話が詐欺といわれる中、たまたま投資した暗号資産が詐欺ではなかったというドリーム要素が非常に大きいということで、「ドリーム型」となづけているようです。

 

実はメンタリティはFIREとかに近いかもとも想います。

大富豪といわれる実業家が、動画配信などに登場して話しているのを見ていると、話し方や雰囲気など、すべての力が抜けている印象を受けます。表情も変につくらないし、誰に気も遣う必要もなさそうなふるまいです。暗号資産でシン富裕層になった人たちも、そういう力の抜けた雰囲気で、思うままに生きている印象です。

相続型

最後の相続型は、特にコメントの必要はありませんね。いつの時代にも相続で富裕層になる人は一定いるのです。

その特徴ーー決断が早い、情報にお金を払う?

では、こうした「シン富裕層」はどんな特徴を持っているでしょうか。

 

「ビジネスオーナー型」と「ネット情報ビジネス型」の2つは、決断の場数が多いために直感が研ぎ澄まされているといいます。「暗号資産ドリーム型」についても、自分で暗号資産について研究し、計画して買うことを決めた人は、ほぼ即決です。サラリーマンとは真逆の、この決断力がポイントの一つです。

 

情報にお金を払うかどうかは、タイプによって違います。「ビジネスオーナー型」と「ネット情報ビジネス型」はここにお金をケチりません。不動産仲介料をケチるとか、もってのほかという考え方をするわけです。

情報ビジネスを仕事にしているタイプは、ノウハウやアドバイスなどには即決でお金を払います。なぜなら、自分自身がこれまで、そうやって専門家からノウハウを買うことで成功してきたし、自身が価値があると思っている情報商材を販売していることもあるからです。ただし株式投資家やFXトレーダーは、自分の努力でコツコツとやってきたという自負があり、情報にお金をあまり払おうとしません

一方で、株式投資家や「資本投下型」の人は情報にお金を払いません。伝統的というか、書籍や論文は信じるけれど情報商材を評価していないタイプです。さらに決断が遅く、相見積もりを取る人が多いことを著者は批判しています。

情報やサービスを値切ろうとし、時間をかけて交渉したがるのが、「資本投資型」の人たちです。特に大企業のサラリーマンは、何かを購入するときにどこが一番安いのか、「相見積もり」を取ります。

その特徴ーー欲を消せるか、ロジックか、信仰か

もう一つ、株式投資で成功している人の特徴は2つあるといいます。

まず株式投資に関しては、「欲をなくす」よう、精神力を鍛えるしかありません。お坊さんのような無の境地に入るのです。

欲を消せない人が、もうひとつ取れる手法としては、信者のように信じ込むことです。 金融マンが一生懸命に勉強して、投資の手法をロジックで固めるのは、頭で考えて決めておかないと、どうしても感情に負けてしまうからです。

投資で勝ち続け、何億も稼いで「シン富裕層」になれる人は、欲から解放された人か、ロジックを信じて実行し続けられる人。これはいろいろ納得感があります。自分の経験でも、数万円、数十万円くらいが一番欲にまみれる金額で、失って怖いし、得て嬉しく想います。このお金で「あれが買える」とか想像しやすいのです。

 

ところが、これが数百万、数千万、数億の増減となると、だんだんスプレッドシート上の数字になっていきます。イメージがわかないがゆえに、何パーセント増えたかはチェックしますが、だからどう? という感じになっていきます。ゲーム感覚になるのです。

 

ロジックで固めてルールを作るというのも、トレードの成功則としてよくいわれますが、それを「信仰」と呼ぶのが面白いところ。さらに、仮想通貨で成功した人こそ、まさに「宗教のように信奉できる」ところに特徴があるといいます。

暗号資産ドリーム型は、暗号資産をとことんまで調べて、将来の値上がりを宗教のように信奉できるのです。

次世代の最強ビジネスは情報商材

「富裕層はこんな考え方をする」「富裕層はこれを大事にする」みたいな記事がネットによくありますが、いずれも変な礼賛で、ぜんぜん僕が知っている富裕層とは違うなぁと思っていました。ところが、本書が描く富裕層は本当にリアルです。そうそう、今の富裕層ってこんななんですよ。

 

そして筆者が「次世代の最強ビジネス」と呼ぶのが情報商材です。

情報商材の「ノウハウ」はピンキリですが、基本的には「狭くて深い専門的な知識」というよりも、「広く浅く、実践的で役立つ」ものが、不特定多数の人に好まれ、売れています。

noteとかを見ていると、このジャンルのイメージがだんだん変わってきていることも感じます。「出会い系」と呼ばれて怪しまれていたサービスが「マッチングサイト」として誰でも使うものに変わっていったようなものでしょうか。

 

こうした価値観も、だんだんアップデートしていかなくてはいけないかもしれません。

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